家のサーバやNW環境を停電に強い構成にするためにPoE化を考える:CHUWI HeroBox(2)
前回の続きです.
短期間限定セールだと思われるので先に書きますと,CHUWI HeroBoxは2万5千円に4千円引きクーポンとい感じが多いのですが,現在19.945円で売られています(2022/08/29).買い時をウォッチしている方は2万円を切ったタイミングで行くのが良いかと思いますので,今がその時かと.
さて,小型軽量オールインワンでファンレス・無音かつパフォーマンスもあるCHUWI HeroBoxをLinuxサーバとして動かし始めた件について前回書きました.マトモなスペックのサーバーが,各種サービスを24時間連続稼働で動かしているのに全くの無音というのはなかなか感動モノです.家庭内に置くマシンの場合,やはり騒音に対してはある程度配慮する人が多いでしょう.PC自作派の人であれば,少しでも発生する騒音を減らそうと静音の冷却ファンをチョイスしたりした経験があるんじゃないかな.HeroBoxの場合はCPUファンもケースファンもなく,自然対流で冷却します.そしてストレージもSSDにすればHDDの発する騒音からも開放され,無音なわけです.素晴らしい.
で,本体が小型軽量な点を生かし,リビングのテレビラック裏のワイヤーネットにぶら下げて設置したのですが,そのときにふと思いました.『ACアダプタ,邪魔だな…』と.また『この場所にUPS(無停電電源装置)置くとちょっと邪魔だな』と.更には,もっと全体的に考えて災害時/停電時に強い構成も取れるんではないかと考え(妄想?)が広がったわけです.
そのようなわけで,今回はその辺りを少し書いてみます.
私が住んでいる地域,酷い年は落雷などによる瞬停が年に数回あります.ただその一方で1時間を超えた停電は1回くらいしか経験したことがなく,過去に15分を超える停電は滅多なことでは発生しませんでした.ただし,たとえ瞬停でもPCでディスクに書き込んでいる最中に発生しようものなら論理的/物理的なディスククラッシュの危険性があります.かくいう私も『流石に家にUPSは…』なんて思ってノーガードであった時期に何度か瞬停に遭い,復旧にえらく苦労した事が何度かありました.
そんなわけで,大切なマシンやサーバーにはUPSが必要です.更に言うと,大半のUPSの用途は『急な停電』の際に安全にマシンをシャットダウンするためのものですが,容量に余裕があれば停電中にもサービスを動かし続けることが出来ます.この点は詳しく後述します.
ここでUPSに関して少し説明すると,給電方式は大きく分けて『常時インバーター給電方式』と『常時商用給電方式』の2種類があります.前者は停電時もそうでないときも常にインバーターから給電するタイプで,性能的に安定していて正弦波が出力されます.企業向けをはじめとしたある程度以上のグレードの製品はこのタイプが多いです.当然ながら値段は高め.そして後者は停電時のみバッテリ駆動に切り替え,普段は入力された商用電力をそのままスルーして出力するタイプ.家庭/SOHO向けの安いタイプは大抵このタイプです.切り替え時に(大抵の場合は問題にならない程度の瞬間的な)瞬断が発生するのと,停電時に出力される波形が矩形波であることが短所です.
昨今のPCの電源には力率改善回路(PFC:Power Factor Correction)が使われており,(雑に説明すると)供給された電力の使用効率を高めるようになっています.しかしこれは商用電力と同様の正弦波が入力されることを前提とた設計であることが多く,矩形波を入力すると正常に動作しない電源もありますのでご注意を.
さて,私がHeroBoxを接続している/いたUPSはCyberPowerのCP550JPです.常時商用給電方式の550VA/330WのタイプでAmazonだと約7千円で購入できます.常時インバーター方式になると,CyberPowerだとこの辺りの製品になり,2万5千円くらい.私は仕事ではOMRON製UPSをよく使うのだけど,500VA/300Wくらいで良ければこの辺りで約2万円.仕事でサーバー管理をやっている人の場合はAPC製のほうが馴染みがあるかもですね.商品ラインナップも幅広いです.UPSは求められる内容と懐具合に合わせて選んでみてください.
閑話休題.
どのタイプや製品を選ぼうとも,UPSはバッテリを内蔵しているためにそれなりに重量やサイズがあります.そのため,『嵩張る』し『場所を取る』.
家の中に設置する場合は19インチラックに収納できないため(ですよね?w),床上に置くことに.すると多少工夫出来ないことはありませんが,下の写真のようになるわけです.長いAC延長コードを使うのは避けたいのでバックアップする機器の近くに置かざるを得ず,設置場所の自由度は下がります.しかし……と,いうのが今回の本題です.
HeroBoxをPoEで動かす
『ここにコンセントがあればなぁ』なんてこと,多いですよね.例えばコンセントの位置からかなり線を引っ張らないと使う場所まで届かないとか.こんなときは素直にACの延長コードで配線する人が多いと思いますが,もし使いたい機器があまり電力を食わないデバイスであれば,PoE(Power Over Ethernet)を使用して給電するのも手です.
雑に説明すると,Ethernetのネットワークケーブルを使用してネットワークサービスも電力も供給する方法です.従来はIP電話やネットワーク対応の防犯カメラ等によく使用されいていました.Ethernetの敷設であれば電気工事士の資格が不要なので,色々と便利なんです.
そしてIEEEでPoE規格は順次拡張されており,当初は15.4[W]までしか供給出来なかったものが現在では90[W]まで供給可能になっています.
規格 | PoE(802.3af) | PoE+(802.3at) | PoE++(802.3bt) |
最大供給可能電力 | 15.4[W] | 30[W] | 90[W] |
まるでUSBみたいですね.当初は通信用の規格だったのに電力供給・充電用にも進化し,最大100[W]の電力供給が規格化されているUSB PD(Power Delivery)のようです.
『でも,PoEを使える機器って特殊でお高いんでしょ?』なんて思われるかもしれませんが,最近はかなり手頃な価格帯になって来ています.
例えば今回使用したTP-LinkのTL-SG1005Pは4ポートがPoEに対応した 5 Portの1GbE スイッチであり, アンダー5千円.今購入するのであれば,PoE+に対応したTL-SG1005Pの方が良いかなと思うけど,値段はほぼ同じ.
なおPoE対応スイッチ全般に言えることですが,機種の選択の際にはPoE/PoE+/PoE++の何れに対応しているかの他,何ポートがPoEに使用できるのか,そしてスイッチ全体で何ワットまで電力供給可能であるかも確認するようにしてください.例えば上記2機種の場合,前者はPoE対応で後者はPoE+.ここだけ見れば後者の方が圧倒的に良いのですが,スイッチの合計供給可能電力は前者が56[W]で後者が40[W].そのため,例えば15[W]のデバイスを前者は3台動かすことが出来ますが,後者は2台しか動かせんません.動かす機器の構成を考慮して選ぶようにして下さい.
と,いうことでTP-LinkのTL-SG1005Pですが,一般的な製品と異なり,スイッチ本体とくらべてACアダプタが大きいことが下の写真から分かると思います.
『5-Port Gigabit Desktop Switch with 4-Port PoE』
入力は48Vの1.25Aで60Wと大きいです.PoEで最大56Wまで出力可能であることから逆算すると,純粋なスイッチ自身のの消費電力は4Wくらいという感じ.
一般的なスイッチは5Vや12Vのものが一般的ですが,入力電圧が高い点が特に目立ちます.PoEの出力電圧が48V(最大は57V)であるためです.
そして大ぶりのACアダプタはワールドワイド仕様で定格通り48V 1.25A出力.
さて,それではドライブするHeroBoxのACアダプタを見てましょう.12V 3Aとあります.36Wです.
PoEの15.4Wでは全然足りませんね.しかし,前モデルでは省電力設計を採用して消費電力を10W未満に抑えていたという話もありますすし,USBポートでの消費電力分を考えると,何も繋げなければ
- 2ポートあるUSB 2.0は定格で5V*0.5A出力可 = 5W
- 3ポートあるUSB 2.0は定格で5V*0.9A出力可 = 13.5W
が不要になるため,少なくとも20W程は減らせるわけです.最近のUSBポートはもっと電流を流せる場合が多いので,その点も考慮すると更に余裕が出てきます.そんなわけで,PoEで十分ドライブ可能と判断しました.
PoE対応機器の場合,機器のネットワークポートにEthernetケーブルを刺すだけで通信が出来て電源供給も受けられるようになるのですが,HeroBoxはPoE対応機器ではありません.そのためPoE Splitterを使用することにします.
様々なタイプが出ていますが,12V 2A出力を選択しておけば問題はありません.例えばこの辺りの製品.1個1,500円前後,2個セットで2,500円くらいが相場かな.
このPoEスプリッタが何をするかと言うと,Ethernetケーブルを介して届いた『通信』と『電力』を分け,通信用のEtherntケーブルと電力供給用のピンジャックに分割して出力します.なお,製品名が同じでも電力出力側の仕様が5Vであったり,ラズパイ用にmicroUSBであったりする場合があるのでご注意を.HeroBox用には12V 2Aのタイプを選択してください.
入力側にPoEスイッチからEthernetケーブル1本で接続します.
出力側の5.5mm*2.1mmピンジャックとEthernetケーブル.
で,ここで問題発生.HeroBoxの電源コネクタは5.5mm*2.5mmピンジャックでした.
そうです.そのままでは刺さりません.なぜ一般的な2.1mmピンジャックにしないかなぁ….
しかし心配ご無用.この手のコネクタ形状のミスマッチはよくあることで,変換アダプタが多数販売されています.
今回は(結果的に片方不要になったけど)2種類用意しました.
まずは5.5mm*2.1mmから5.5mm*2.5mmに変換するアダプタ.物はコレです.350円也.
一応並べてみると,HeroBoxのコネクタ(左)と大きさが一緒であることが分かります.
保険で用意したのは,変換アダプタ9種セット.特殊なタイプも含め,大抵はこれで1セットで対応可能です.ただ,今回は上記のアダプタで事足りたため出番なしでした.
※コネクタの形状が同じでも異なる電圧が求められていることがあるため,『刺さるなら使える』わけでは無い点にご注意ください
ではさっそく接続実験.TL-SG1005Pにネットワーク上流からの線をつなぎ,HeroBoxに向けてCAT6(PoEを使用する場合はCAT5e以上が必要)のケーブルで出して…
PoEスプリッタに繋ぎます.
PoEスプリッタのステータスLEDでリンクアップを確認.
そしてPoEスプリッタのネットワークケーブル,電源プラグを(上記アダプタを付けて)HeroBoxに接続.あ,ちょっと写真が見にくいですね.
こんな感じ.電源ONで普通に動きました.通信も全く問題なし.
当初はHeroBoxはEthernetのステータスやアクセスランプも無いので不便だなぁと思っていたのですが,(暗い)夜間などに点滅するLEDが無いのはメリットだなと実感.輝度の高い青LEDの点滅って,結構目に刺さるんでよね.
半分余談ですが個人的にはTP-Linkって安くてスペックは良いのだけど,安定性や耐久性に若干不安を持っています.安心感という意味ではNETGEARの方が(私の中では)上です.
そんなわけで,8Port PoE+対応のGS108LPを引っ張り出してきました.
このスイッチの良いところは,標準でバンドルされているACアダプタではスイッチ全体で60Wしか供給できないけど,ACアダプタを変更することで性能強化が可能なこと.下の写真はEPS90W-100JPS(ん?Amazonの写真が変…)というオプション扱いのACアダプタだけど,90Wのアダプタを接続することによって83W給電可能にパワーアップすることが出来ます.
ACアダプタはそれなりに大きくなって,8ポートスイッチの本体とあまり変わらない大きさに.
これから新規でNETGEAR製を購入するなら8PortタイプならPoE+対応で123Wまで行けるGS108PP-100EUSか,5 PortのGS305P辺りかな.ただ,色々と安心な一方で値段は高め.
当然と言えば当然ですが,こちらも普通に給電できてHeroBoxも動作しました.
PoE等を使った停電に強い環境を考える
と,いうことで,PoEを使用することによりACアダプタを使用せずにHeroBoxを使用できることを確認できました.あとはこの先の発展ですが,
- UPSを邪魔にならない場所に移動
- 家の中のネットワーク構成を再検討する
- ホームゲートウェイ(ONUとしてのみ使用),光BBユニット,電話,WiFiルータの停電対策
なんて検討も進めています.
まず1つ目のUPSですが,これは3番目も絡みますが,別の目立たなくて邪魔にもならない場所に移動しようと考えています.HeroBoxの近くにある必要ないですからね.
そして2番目ですが,停電時にHeroBoxが落ちなくなっても,ネットワークがダウンしていたら他のマシンからリモートログインして…という操作も出来ません.HeroBoxにたどり着くための経路のスイッチも電源のバックアップをしておく必要が出てきます.
そして3番目ですが,今後はこれをメインに考えようかなと考えています.
話は少し飛びますが,昔の黒電話の時代はNTTの交換局からメタル線で各家庭まで電話線が引き込まれており,電話線から電源が供給されていたために停電時でも電話を使用できました.交換局は電源のバックアップ設備が整っているので,相当な災害で電柱が倒れたり電線が切れたりしていなければ大抵は何とかなりました.しかし今は殆どの家庭は光ファイバーを引き込んでおり,電話は『ひかり電話』等のIP電話系のユーザ.つまり家で停電があるとホームゲートウェイ等が落ちるために電話が使えなくなります.
では…ということで我が家の場合はUPSにホームゲートウェイ,光BBユニット,電話を繋げば(上流のネットワークが崩壊していなければ)停電中もUPSのバッテリが持つ限りは電話が使えるようになります.またこの状態でIP通信も出来る環境が維持されていますので,WiFiルータもバックアップしておけばWiFi経由でスマホやノートPCからインターネット利用可能な状態を維持できます.
もちろん携帯電話通信網はちょっとした災害ではビクともしないため,停電時の電話やインターネット接続は携帯でというのも手です.しかし大勢が一斉に使い始めるような状況になると,どうしても輻輳が発生します.このようなことを考えると,光ファイバー経由のラインが維持出来た方が好ましいですよね.
更に進めてHeroBoxも含めた家の中の有線ネットワークも維持を…ということを考えると,例えばNETGEARのGS105PEのようなPoEパススルー機能を持ったスイッチが便利です.
上位のルータからPoE対応スイッチに接続し,その下流にGS105PEのようなパススルー機能を持ったスイッチを接続すれば,自身は当然のこと更に下流のスイッチやHeroBoxのような機器にも電源供給可能になります.つまり,基本インフラに関しては根元の部分にある程度大きなUPSと十分なドライブ能力を有したPoE対応スイッチがあれば何とかなるのため,UPSをあちこちに設置するよりもシンプルで良い環境が出来るのではないかなと思う.流石に一般的なデスクトップPCをPoEで動かすのは無理なため,必要に応じて追加でUPSが必要になる場合もあるけど.
脱線話を書くと,突き抜けた人だとソーラー発電+バッテリ+ラズパイ等+携帯網を組み合わせた仕組みを作っていたり,ガス缶を使った自家発電機を用意していたりする人もいるけど,ネットワーク環境の延長線上ということであればUPSとPoEを組み合わせた構成で十分かもです.
個人的には,家の中のバックボーンを2.5GbEにして行きたいので,PoEと共にマルチギガ化も絡めて進めたいなぁなんて考えています.ただまだちょっと高くつくかな….
最後に大切な事なのでもう一度書きます.HeroBoxが安くなっているので,気になっている人はお急ぎください.
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