プラチナ万年筆の『顔料ブルー』カートリッジインクを使ってみる:PIGMENT BLUE
今年に入ってから,プラチナ万年筆 #3776 センチュリー UEF(超極細ペン先)を使い始めています.インク漏れに伴って一度修理を経験しながらも,使い込むに従ってペン先が書き癖に次第に馴染み,使い易くなって来ているのが分かります.
万年筆の楽しみというと,軸やペン先のバリエーションを愉しむ他に,インクを変えて愉しむなんて道もあります.極めると『インク沼』とか言われる世界です.
色に関しては,『色雫』を採り上げたことがありますが,インク遊びの王道でしょう.そしてここから本題ですが,今回採り上げるのは,インクの『色』ではなく,インクの種類/性質です.
万年筆用のインクは,古典BB(ブルーブラック)インクのような例外を除くと,ほぼ全てが『染料インク』と呼ばれる物です.染料インクはメンテナンスをサボっても深刻なトラブルになりにくいというメリットがあります.その一方で,水溶性のために耐水性が乏しく,耐光性も低いというデメリットがあり,(古典BBと比べると)長期保存には向きません.
一方,第三勢力として『顔料インク』と呼ばれる,微細な顔料粒子を混ぜたインクがあります.これは『墨』のようなもので,乾燥した後は紙の表面に顔料が残るため,染料インクの弱点であった耐候性・耐水性に優れます.
しかし,ペンの中で乾燥してしまうと深刻な状態になるため,『(メーカーが保証する)このペンの中字以上でのみ使い,扱いには十分注意して下さい』的な扱いでした.しかし現在は『ペンに入れたまま乾燥させないで下さい』的な,やや柔らかい注意書きに変わって来ています.
成分や顔料の進化により,細心の注意が必要な扱い難いものから,普通の人が普通に扱える物になって来たと言っても良いでしょう.
と,いうことで,こちらのエントリーにも書いていた通り,プラチナの顔料インクを試してみることにしました.顔料インクと言えば黒が多いのですが,プラチナ万年筆はブルーもラインナップしており,それもボトルだけではなく,カートリッジインクとしても提供しているんです.
顔料インクと言えば,セーラー万年筆の『極黒』
や,同社のブルーブラックである『青墨』
が有名ですが,プラチナ万年筆の『超微粒子 ピグメントインク』も定番です.
前述の通り,今の所ブルーの顔料インクはプラチナ万年筆からしか出ていませんが,コンバーターを使えば,他社製の万年筆にボトルインクを入れることも可能です.
今回は#3776センチュリーで使用する予定ですので,利便性を考えてカートリッジインク
を購入.
パッケージの鮮やかな青,そして『顔料ブルー』の文字が眩しい.
顔料インクならではの注意書きや特性の説明.
1箱10本入り.店頭価格で500円くらい.
PIGMENT BLUE
プラチナ万年筆のカートリッジインクに付いている金属ボール.写真のように,未使用時には蓋として機能します.使用時はラムネビンの玉のように中に落ち込むのですが,軸を振るとカートリッジの中でカシャカシャ音がしたりします.
インクを攪拌して分離しないようにしたり,棚つり(端にインクが偏って移動しなくなる)を防止するのに役立っています.もうちょっと振ったときに静かだと,もっと良いのですけどね.
では早速使ってみましょう.
元々BBのカートリッジを入れてあったので,きれいに洗浄した後で乾燥させてからセットしました.年季が入っている場合は,『プラチナ 万年筆インククリーナーキット 染料、顔料インク共用 ヨーロッパサイズ用』という製品も出ていますので,インク入れ替えの機会に綺麗に内部をクリーニングするのも良いかと.
で,書き味ですが,インクフローが渋くなった感じはしません.寧ろスルスル.顔料が超微粒子のため,ペン先が滑らかに滑るってことなんでしょうね.
しかし,カートリッジをセットした直後,インクがなかなか出て来てくれなくて焦りました.あれこれ試し,結局呼び水を使ったりしたらインクが出始めました.出始めたらきちんと出るようになったので,一安心なのですが,『UEFなので詰まっちゃった?』なんて感じで心臓ばくばくでした.顔料インクを使用すると,常にこの手の不安が付きまとうのが面倒ですね….
書き味以外に気が付いた点は,色が薄いこと.顔料系は発色が鮮やかになることが多いのだけど,少し分離しているのかなと思う程に薄いです.プラチナ万年筆の染料インクのブルーはとても鮮やかな色をしていたので,ギャップが激しいです.
やはり顔料系は,(現時点では)黒の方が使い勝手が良いかもしれない.
さて,それでは実験君です.
多くの人が顔料系インクに求めるものは『保存性』でしょう.具体的には,耐光/耐候性や耐水性.耐候性に関しては実験に時間がかかるので,今回は水に濡らす実験をしました.
対象は,今回紹介したPIGMENT BLUE,プラチナのカートリッジBB,PILOTのVコーンBP(水性ボールペン),そしてPILOTの色雫シリーズの露草です.
あ,写真中の白く塗った所の下は気にしないで下さい.あと,字が下手なのも気にしないで下さい.
下の写真は,筆記後に流水に晒した後,水中で数回揺すって取り出した状態です.
紙がヘナヘナになるほどの状態なので,土砂降りの中にノートを放置するくらいの過酷な状況かも.一般的シチュエーションでは無いとは思いますが,まぁ実験ということで.
結果はご覧の通り.染料系の露草は思いっ切り流れています.その一方で,プラチナの顔料ブルーとBBは全くといって良いほど流れたり滲んだりしていません.そして意外なことに,水性BPもほぼ無傷.
万年筆の染料系インクが如何に水に弱いかを示した結果になりましたが,カートリッジのBBが殆ど流れていないのに驚かれる人も多いでしょう.そうなんです.プラチナ万年筆のカートリッジインクのBBは,古典BBなんですよ.
完全に乾燥した後&変化した後であれば.BBも無傷だったと思います.ここで滲んでいるように見えるのは,BBの主成分ではなく,色調整のために混ぜたインクの成分だと思います.
なお,メーカーが行った『1時間水没』という過酷な試験結果や,耐光性試験の結果は,こちらで公開されています.顔料インクは凄まじくタフですな.
とは言え,PIGMENT BLUEは私が予想していたよりも淡い色であったため,結局私はBBに戻しました.BBはコンストラストがハッキリしていますし,色も私好み.そして古典BBであれば耐候性も顔料インクに遜色ありませんし.
余談になりますが,古典的BBに関しての話を少々.
近年,ラミーやモンブラン等,生産をやめてしまったメーカーが出始め,古典的BBインクが絶滅しかけているようです.生産中止の理由については,廃液の問題や輸入規制の問題等,様々なことが言われています.しかしメーカーからの正式な理由を含めたアナウンスが今の所無いため,本当の所は分からないですね.
プラチナ万年筆さんは生産止めないで下さいね…(懇願).
この周辺の話しに関して興味のある方は,こちらに詳しく調査された方の素晴らしいエントリーがあるので,是非御一読を.
氏の考察では,おそらく生産コスト/経済性の問題ではないかという結論ですが,もしそうであれば由々しき問題です.経済性で考えたら,万年筆自体が無用な物(もっと安く,そしてランニングコストも低い筆記用具は多いですよね)と言えてしまうわけですよ.
なので,メーカーが経済性の追求とかコストカットを追求すると,一番金払いの良い客層が不満を抱えたり離れたりする原因になるでしょうし,そもそも万年筆の価値の自己否定になると思うんですよ.
『価値のある無駄』というのは永遠に残していって欲しいものです.『無駄は文化』なんて言葉もあるくらいですから.
似たような話として,時計もそうですね.クオーツに押されて絶滅しかけた機械時計ですが,やはり機械時計には機械時計の価値がありますし,見直されてもいます.時計は単なる正確に時間を刻むためだけの道具ではないのですよ.
え?私?普段はプロトレック使ってますけどね(笑)
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