Evernote Days 2014 Tokyoに参加した(3)
と,いうことで,こちらエントリーの続き.Evernote Days 2014 Tokyoで聴講した3コマ目です.
Evernote Japanのジェネラル・マネジャーである,井上 健氏による『Evernote の未来 生産性ツールを超えてどこに向かうのか』です.
井上氏の登壇.氏のオーラののせいか,とても和みます….
そして冒頭,ソーシャルで『駄洒落が欲しいという話があった』とのことで駄洒落を言われたような気がしますが,突発性健忘症になったのか,内容を覚えてません(笑)
で,この講演が,今回私が聴講した中で唯一のEvernote社の中の人による,Evernote社に関する講演でした.
Evernote Daysは公式イベントですし,CEOのビデオレターがあったり,中の人による驚きの発表やプロモーションがあってもおかしくないと思うのですが,今回は(?)何故か控えめです.
あまりビジネス的なカラーを出さず,ユーザーイベント的色彩で彩りたかったのかなと想像するのですが,真意はどうだったのでしょうか.
冒頭のスライドでいきなり『CEOに10月のイベントで何を発表するのか?』というキャッチーな話題から入りました.
ワクワク感が渦巻く会場.次に発せられる言葉を聞き逃さないよう,緊張感が張り詰めました.そして発せられた言葉は…
『Evernoteは,遠い将来は見えているけど近い所はまだ分かっていなかったりする会社.フィルに10月のイベントで何を発表するか聞いたけど,まだ決まっていないようだった』とのこと.
素晴らしい すかし技です.会場の高まりきった緊張感が一気に弛緩すると共に,和やかな雰囲気に変化しました.
しかし,『何も決まっていないと言われた』と断言されたわけではないので,面白い話を断片的に聞かれたんだろうな…と,想像.
そしてlifehackerによる,『仕事の効率を上げるには官僚主義の排除から。EvernoteのCEO、フィル・リービン氏インタビュー』という記事の紹介.
氏も言われていましたが,この記事は実に素晴らしいので一読,いや,繰り返し読まれることをお薦めします.Evernote社の雰囲気,そして会社の思想的なエッセンスをCEOの言葉を通して知ることが出来ます.
そしてインタビューの中でも採り上げられているのがこの言葉.
『どんな製品にも、会社の文化が映り込む』
拍手こそ出ませんでしたが,会場全体の雰囲気は『そう,そう』と深く頷く感じでした.
『Evernoteの未来』として,同社の製品を題材に考えてみる.取り上げるのは『Evernote Market』とのこと.そして『新規事業にこそ,最新の,未来への思いが込められている』の言葉.
Philが社員に向けた説明は,『最初は違和感があるでしょう.いずれ判る時が来る』とのこと.実に簡潔ですが,ビジョナリーとしての揺るぎない自信と共に,強力なリーダーシップを感じます.
続いてEvernote Marketを知らない人に対しての説明がしばらく続きます.親切です.一見さんも切り捨てません.
そして日経の記事の紹介.タイトルは『なぜエバーノートが靴下を売り始めたのか』.
弄り引用し甲斐のあるキャッチーなタイトルの記事が出たことに関し,この満面の笑み.
そして周りの反応は…
そして見方は…
Evernote社の中の人としての解説が,ここから始まります.
まずはビジネスモデルとしての考え方.
先の日経の記事では,『広告でもない課金でもない,第3の収益の道』として解説されていたけれど,『収益化』が至上命題であれば,他に効率のイイ道がある.
そもそも物販は大変だし,収益率が悪いので効率が悪い.効率化を押し出すEvernoteらしくないとの説明.
Evernoteにとってより大事なことは,『約束したビジネスモデルである』ことであり,この『約束』とは,『ユーザに商品を直接購入してもらうこと』.
そしてビジネスに対する考え方は信頼が第一で,ユーザと利益相反するビジネスはしないこと.
これを元に何をやらないか決めている.邪念の入り込む余地が無く,また,そういう経営,プロダクト哲学を持っている.
Evernote Marketのビジネスモデルも同じ原理原則に従っている.
収益モデルに関する宣言も同じ.しかしこれ,普通の会社ではなかなか宣言しない・出来ないことだ.
それとも,(Evernote MarketはPhilの)ただの趣味?という捻りも忘れません.
その2.『ソフトとハードの今後』.
Evernoteがハードを手掛ける意味とは何だろう.
Evernoteは様々なハードウエアと連携している.UI/UXが不便であったり面倒であったりまどろっこしかったりする場合がある.
これはソフトのみの限界であり,ハードも含めたユーザ体験を最適化する必要がある.例えばScan Snap Evernote Edition.
この経験は,ウェアラブル時代の商品開発に役立つと考えている.そしてEvernoteは,もはや「スマートフォン」の「アプリ」の会社ではない.
つまりEvernote Marketは,
- ハード・ソフトが一体となったUI・UX
- ウェアラブル時代のデザインの準備
- Evernote Marketは,Evernote社の最先端の試みのショーケース
である.
…それとも,Philがメガネをしているから?(と,再びPhilをいじります(笑))
その3.『100年スタートアップ』.
普通のシリコンバレーのスタートアップは,短期で考える.これは短いサイクルで回して資金を回す必要があるから.しかしEvernoteは違う.
日本の長く続く企業にPhilが影響を受けたから.何かの取材でPhilが間違った数を言っていたが,調べてみたところ,世界に200年以上続いている企業は5,000社あり,そのうちの3,000社は日本の会社.
しかし,100年後には何が残っているだろう.アプリもハードも残っていないだろう.残るのはブランドだ.では,何のブランドか?
Evernoteは,『仕事・生産性』に関して,人々が信頼を寄せるブランドとなりたい.
そしてEvernoteは自由が特徴で,良さだ.『仕事』での生産性効果は絶大.
そしてブランドや信用を築くのに,『モノ』は重要.モノを持たないブランドは無い.例えばナイキというブランド.
Philはスポーツが出来ないし,ナイキは多分一つも持ってないだろうけど(と,再びCEOをいじります(笑))
近年,イノベーションはコンシューマ向けに生まれてエンタープライズに活用される時代.
エンタープライズ向けは保守的であるが,コンシューマ向けは変化が多く,失敗しても良い(寛容).そしてコンシューマ向けで生き残った良い物がエンタープライズ向けに行く.例えばGoogle.
そしてコンシューマ向けで蓄積した信用は,エンタープライズに持ち越せる.
そしてEvernoteは独立・中立性を保つ.Philは会社を売らないと宣言している.
シリコンバレーでは会社を売らないと言うべきでは無い.何が起きるか判らないし,選択肢を狭めてはいけないから.
…でも…明日Evernoteが買収されたニュースが流れても怒らないでね(会場内爆笑)
そして100年単位で見ると,企業の価値は『企業文化』にこそあると考えている.社員全員で理想的な働き方を実践しようとしている.
単なる生産性ツールではなく、プロダクトにそれ以上のものを感じて貰えると嬉しい.
Evernoteの社員は,帰宅すると机の上が綺麗になっている.しかし,Philの机の上は散らかっている.実は(Evernote MarketもPhilの)ガジェット好きによる産物?(と,最後の弄りも忘れません(笑))
と,いう流れの講演でした.
***
私の主観と偏見でまとめると,要旨は次のような感じ.
- Evernote Marketを始めた意味が分からない人が多いと思う
- 物販を第三の収益の柱にするために始めたのではない
- Evernoteの将来を見越したショウケースだ.ハードも含めたユーザ体験の最適化を考えている
- そしてEvernote Marketにも,Evernote社の会社としての文化や考え方が込められている
- Evernoteは100年後にも存在するブランドを目指している.そしてそのための施策を打っている.モノに拘ったのは,ブランドや信用にモノは必須だから
- Evernoteが目指しているのは,『仕事・生産性』に関して,人々が信頼を寄せるブランドだ
- でも本当は,Evernote MarketはPhilのガジェット好きが高じて始めたものかも(笑)
多くの人が関心(違和感?)を寄せているEvernote Marketをネタに,Evernoteの会社としての基本的理念を改めて示したといった所でしょうか.
シリコンバレーのスタートアップというと,『一攫千金』や『CEOの自己顕示欲』的な側面が見え隠れする会社が多いですよね.例えばfacebookは『フェイスブック 若き天才の野望』,twitterは『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り
』という書籍に詳しくまとめられていますが,表面的にはクールでクリーンなイメージの反面,内情は凄くドロドロしていて…という所も結構あります.特にtwitterに関しては,この書籍の最初の数ページを読んだだけで,あまりのギャップに面食らうことでしょう.御一読推奨.
ところがEvernote社はどうでしょうか.
Philの『部下より上司が優秀、そんな会社に将来はありません』と題したこのインタビュー記事を読むと,何やらホノボノしてしまいます.この部下を立てるという点,親日家であるという点,Evernoteの会社としての考えや方針等,日本人としては,とてもシンパシーを感じてしまいます.
また,チラチラと見え隠れするガジェット好きDNA的なものに対しても,個人的には強くシンパシーを感じます(笑)
しかし,GMが行った講演の端々からは,このようなクリーンで柔らかいイメージだけでは無く,Evernoteの組織としての強さも感じました.
例えば『最初は違和感があるでしょう.いずれ判る時が来る』という社員に対してのメッセージ.
私はここに,Philのビジョナリーとしての強さと,CEOとしての覚悟を感じました.
意訳すると,『考えがある.俺を信用して何も言わずに付いて来い』という絶対的な自信を持ち,そして強い意志を持って選択をするという態度.そして言外に,『絶対成功する.もし失敗しても,俺が責任を取る』って強い信念と責任感も感じる.格好イイ.
また,CEOが『こうだ!』と,方向性を示したときに,会社がそのビジョンの元で力強く動いて行くという点に,組織としての強さをも感じた.
それもCEOが一人で突っ走っているのでは無く,また,独裁者的な振る舞いをしているわけでもなく,ビジョナリーの脇を固めるCTOのDave Engberg,COOのKen Gullicksen,そしてその他の多くの社員達が一丸となって疾走している姿がイメージ出来た.
一般に,人は説明などして納得しないと動かないものだけど,『いずれ判る時が来る』と言われるだけでトップスピードで動き始めるわけで,社員が如何にCEOとそのビジョンに対して絶大な信頼を持っているかも判ります.
今後の展開にもワクワクするものを感じさせられました.
中の人の講演を聞く機会が得られ,実に良かったです.
# あと,端々に見られたのだけど,GMの様々な方面に対する配慮には頭が下がる思い(^^
***
次の講演のレポに続きます.
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