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2007年9月22日 (土)

玉砕の島

 太平洋戦争中の島嶼戦で玉砕に至った戦いは数多くあり,そしてその殆どはあまり知られていない.

 本書は,そんなあまり知られていなかった戦いにも光を当て,壮絶な様を書き記した書籍である.

 「知っている玉砕戦は?」と聞かれたら,大抵の人は「硫黄島」と「沖縄」を挙げると思う.もう少し戦史に詳しい人になると,「アッツ」と「サイパン」を挙げるかもしれない.でも,実際には遙かに多くの島・地域で守備隊は玉砕の憂き目に遭っている.

 改めて説明するまでもないが,「玉砕」は「全滅」とほぼ同じ意味を表す言葉.「負け戦かつ守備隊全滅」という状況を「玉の如くに清く砕け散った」と,言い換えることにより,印象操作しようとしたもの.「退却」を「転進」と言い換えるような感じに近い.使う言葉による印象操作というのは未だに常套手段のようで,最近の話で言うと,「家庭だんらん法」ってのもありますな.

 外国の軍隊の場合,全滅に到るまで戦闘が継続されることは殆ど無い.大抵は「これ以上の戦闘は無駄」となった時点で降伏をすることが多いからだ(アラモの砦等,無いことは無いが).そしてそういった前提で訓練も行われており,降伏した後の処し方(尋問の際に喋って良いこといけないこと,尋問に対する態度等々)も,教えられていたりする.

 一方,旧日本軍はというと,「戦陣訓」(軍人の取るべき行動規範を示した文書)に「生きて虜囚の辱めを受けず」と書かれている通り,「捕虜になるなんて恥」という教育がされていた.そのため,希望の火が消えようとしているときには何としても捕虜にならじと自決を選んだり,「バンザイ攻撃」を行って全滅に到ることが多かった.

(余談であるが,本人の意に反して重傷を負っていたり人事不省になった所を捕虜になる人も多かったわけだが,捕虜になったときの行動に関しては教育されていないため,比較的楽に米軍は情報を聞き出せたようである)

 玉砕戦ともなると,文字通り完全に全滅した部隊が少なくないため,各個の戦闘の状況や経過が不明な場合が多い.しかし幸いにして生存した数少ない将兵により,その悲惨な状況が後世に語り継がれることもある.補給も途絶え,圧倒的な兵力差の下,司令部から「死守」と言われれば本当に文字通り死ぬまで守った.鎧袖一触あっという間に全滅した場合もあれば,ジワジワと締め付けられて行ったケースもある.

 本書で語られている玉砕戦を列挙すると,以下の11の戦い.硫黄島のように映画化等もされ,その戦闘の凄まじさが有名になった戦いもあるが,何れも苛烈を極めている.

  1. タナンボゴ島
  2. アッツ島
  3. マキン島
  4. タラワ島
  5. クエゼリン島
  6. エンチャビ島
  7. ロスネグロス島
  8. サイパン島
  9. テニアン島
  10. ペリリュー島
  11. 硫黄島

 そして読んでいて特に驚きを隠せなかったのは,状況判断の甘さから逆上陸により形勢を逆転しようとしたペリリュー島の戦い.

 先発して逆上陸した部隊は次々と壊滅の憂き目に遭い,この状況を司令部に連絡をしなければ,続々と送られてくる後続の部隊の全滅は不可避である.にも関わらず,電話や無電等の連絡手段が無いという状況に置かれた.結局伝令という原始的な方法を取らざるを得なかったわけだが,伝令は何とガランゴル島までの海原を20時間かけて60kmもの距離を泳ぎ切り,役目を果たした.それも単に泳ぐだけではなく,敵機の機銃掃射等を受けつつ多くの鮫が泳ぐ海域を,出発時には16人であったのが3人にまで減りながら.そしてこの伝令により,逆上陸作戦は中止となった.今まさに死地に赴こうとしていた一個大隊は作戦中止で配置換えとなり,その後彼らは終戦まで命を長らえたそうだ.

 その他にも,森林はおろか何もさえぎる物の無い小島に鉄の暴風雨とも言える艦砲射撃や爆撃が行われ,その後圧倒的な兵力が上陸するのが見え…といった状況が数多く出てくる.大きな島や大陸であれば退却も出来たであろうが,海に囲まれた小島では,退路すらない.将兵の絶望的にまで追い詰められた心境は,想像を絶するものであったであろう.

 ノンフィクションの戦記物の場合,「キスカ島撤退作戦」のような痛快な結末を迎えた物の方が受けが良いであろうし,売れるのであろう.その一方で,商業的にはあまり成功しないであろうが,本書のようなあまり語られない話を集めた本は貴重である.出版業界も相当厳しいという話を聞くが,こういった貴重な本が絶版にならなければ良いが…と,心配でならない.

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