さよなら、スナフキン
山崎マキコ氏の著作を初めて読んだのは,『健康ソフトハウス物語』(1990年刊)でした.
もう17年も前のことか…あの頃は…と,ノスタルジーに浸る程昔のことになりますが,たまたま秋葉に行く用事があり,(表紙の絵に少し引いてしまったものの :-) )LAOX で平積みになっているのを見付けて購入した覚えがあります.
凄まじい売れ行きだったそうで,翌年には続編(『続 健康ソフトハウス物語』(1991))が刊行されました.当時コンピュータに興味のあった人であれば,読んだことのある人が,かなりの割合で居るのではないかと思います.
購入後,帰りの電車で読み始めたら抱腹絶倒の面白さで,車中寝ようと思っていたのに眠気は吹き飛びました.そして会社の秘書に貸したところ,回し読みされ,随分長いこと手元に戻って来ませんでした.『電車の中で読んでたら思わず吹き出してしまって恥ずかしかった!』なんてクレームを入れられたことも.
まぁそんなわけで,山崎氏は本当はとてもシリアスなネタすら面白おかしく書くという意味ではすごーく才能のある方で,読み始めたらグイグイ引き込まれ,気が付いたら最後まで読んでしまうこと必至とも言える本でした.
その後,本屋に行く度に「続編は出てないかな~」と,探す日々が続きました.そして徒労に終わる日々が何年も続いたわけですが,そのうちにパソコン雑誌にチラホラと記事を見かけるようになりました.しかし,私が読みたいのはこういった話ではなくて…と,悶々としているうちにさらに何年か経過.
忘れかけていた頃に,ふとこれら書籍のモデルになった,(株)ドキュメントシステムのページを発見.そして2005年10月に活動を終了したことを知ります.見付けたのは活動終了の翌月でしたが,そこから色々な記憶が蘇って来て,Amazonで『山崎マキコ』をキーワードで検索.ウイッシュリストに入れまくり.このとき初めて山崎氏が小説家に転向したことを知りました.
それらは1年ほどウイッシュリストの肥やしになっていたのですが,昨年リストの整理をしていた際に,『さよなら、スナフキン』が文庫本化されたことを知り,即購入&読み始めました.
* * *
長い前置きになりましたが,こんな背景もありまして,本書は私の空白の16年を埋める書籍とも言えます.
早速届いた本を目の前にして,期待が大きい分,同時に大きな不安も感じていました.『小説』ということで,急に肩肘張ったお堅い文体や内容になっていたらつまらないかも…元々の芸風は維持されているんだろうか…等々.新潮社というお堅い会社から刊行していることや,『さよなら、スナフキン』という,内容が掴めないタイトルからして,不安は募ります.ただ,この不安は実際に読み始めると同時に解消しました.
主人公は,大学に在席しつつも諸々不安や葛藤や劣等感を感じている大瀬崎亜紀.友人とのちょっとしたトラブルを切っ掛けに一念発起してアルバイトをすることに.そして,とある編集プロダクションに面接を受けに行く….
あれ?どこかで読んだような話.
編集プロダクションでは,○が△で□が××して,シャチョーが…
あれあれ?どこかで読んだような話が.
そっか…『健康ソフトハウス物語』の裏ではこんな事が….本書を読み進めると,先の本ではあまり伝わって来なかった苦悩や葛藤までが素直に伝わって来ます.とは言っても,一連の話は彼女独特の文体で書かれているので,読んでいて気分がブルーになるということはなく,基本は明るく笑いながらテンポ良くで.
読了感は,『全てを吐き出して無いやろ!』という突っ込みを入れたくなる感覚と共に,『大変やったんやね…』という言葉をかけたくなるような,ほんのりと暖かくなるような感覚.そしてしばらくすると,その後どうなったのかを知りたいなぁという欲求がフツフツと湧いてきます(別の著書で色々とカミングアウトしているらしい.購入済みなので,感想はいずれブログにて).
と,いうことで,『健康ソフトハウス物語』を読んだことのある人は必読!と,声を大にして言いたい.そして「山崎マキコって誰?」という人にも,「オモロイから読んでみ」と教えてあげたい.
次回作を読みたい気持ちが高まり,ジリジリと焼け付くような渇望感を抱いていた所にやさしく雨が降り始めたごとく,空白の16年を埋めて余りある本でした.内容もそうですが,表現方法も昔より洗練されて来ているような感じがし,より一層面白く,そして読みやすい本にまとまっておりました.
あ,一応,この小説はフィクションと書かれていますので,一応その点は押さえておいて
下さい :-)
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