« 幸せな気分になれる鉛筆:サンスター さくらさくえんぴつ | トップページ | 映画「この世界の片隅に」を観て »

2016年11月24日 (木)

知的生産の技術で盛り上がる雑誌『かーそる』創刊号を読みましょう,いや,読むべきです.

久しぶりに書評をしましょうかね.

雑誌『かーそる』ですが,先週末にAmazonで目にして早速購入.そして一気に読んでしまいました.夕食時,嫁さんにもよく『せっかく作ったんだからゆっくり味わって食べて下さい!!』と怒られるんですが…すんません.近々二週目の読みに入ることにします.

で,『おおお.これは!』と,思ってカスタマレビューを書きました.でも,あのレビューは思いっ切り端折った部分がありまして,後でまとめようとメモしておいたトピックはあの数倍はあったんです.

そんなわけで,レビューの補完的な意味も含め,本書の凄さを紹介してみようと思った次第です.

まず,創刊にまで至る経緯が凄い

端末やインフラの普及,その他環境の成熟によって電子出版のハードルが低くなったのは確かです.でも,同人的に個人的に出版してみるとか,サークル活動的に同好の士向けに一般の目を気にせず出版ということであれば別ですが,一般紙という立ち位置での出版は色々と大変ですよね.ましてや雑誌の場合,著者と編集者のワンツーマンで創り上げるのではなく,考え方も表現方法も異なる大勢の執筆者をまとめ上げて一つの方向に向ける必要があるわけですから.

『かーそる』創刊に至るまでの背景情報に関しては,追い切れていない部分もあるのだけど,『こんな雑誌が欲しいね』という発言をしたら『言い出しっぺの法則』が発動し,twitterで勧誘活動をして執筆陣にコンタクトを取り,Evernoteの共有ノートブックで原稿の執筆作業を進めて…という流れのようです.まず,この行動力とスピード感が凄いなぁと.

編集長自らが書かれた背景情報がこちらのページにありますが,この手の話は好きじゃないと出来ないし,情熱が無いと走り続けられないよねという思いを新たにしました.倉下氏は何度かお見かけしているのですが,あの一見飄々とした(失礼!)感じのどこにこれだけのガッツが秘められているのだろうか…と思ったりした次第です.

いくら理想が高くても,例え才能に恵まれている人達が集っても,そして周りの環境が良かったとしても,最後までやり切ることが出来なかったプロジェクトって多いじゃないですか.そういったとき,『頑張ったよね』とか『楽しかったよね』とか『過程が大事だよね』とかいう意見もあるとは思うけど,やはり最後までやり切る(この場合は創刊にこぎ着けること)のが一番大事だと思うし,そのためには最後の最後には編集長の求心力が試されると思うのです.

まとめ方も凄い

編集長って絶対的な権力を持っているじゃないですか.

『この雑誌は俺の雑誌だ』的な人の話しはよく聞くし,逆に周りから聞こえる話として『あの編集長あっての雑誌』というものもある.そして一般的に,編集者は執筆者に『こんな感じの展開にしたいので,こんな感じの記事書いて下さい』的な依頼をかけるし,『この内容は他の記事と被るので,ちょっと変えてもらって…』とかいう調整が入る場合もある.なので,『普通』の雑誌って一本の太い幹があって,そこに記事という名の枝葉や果実が付いている感じのことが多い.ある意味,規格化された記事が合体して雑誌が出来るような感じ.林檎の木に梨やスイカが実を付けることは無いのです.

しかし『かーそる』は全然違うんです.一般の雑誌から見たら異色です.異端と言って良いほど変わっています.途中まで読んで『あれ?違う!?』と,強烈に違和感を感じました.悪い表現を使うとしたら,闇鍋的,ごった煮的な感じ.商業誌として見た場合,(まとまりが無さ過ぎて)『編集長,仕事してないだろ』的に見えるかもしれない.

そしてどのようなやり取りが成されたか知らないのだけど,執筆陣側も,『こうまとめて欲しいんだろうな』的な所に変に気を回してしまうような,枝葉の方からボトムアップ的に『お固い』太い幹が出来上がってしまう雰囲気も無い.『何も気にせず自由に書いてね』という雰囲気.

と,ここまで書くと『暗に批判してる?』 と,思われるかもしれませんが,違うんです.こういう雰囲気,私は大好きです\(^o^)/

最近はすっかり遠ざかってしまったけど,私が関わっていた界隈のオープンソースの世界もこんな雰囲気でした.

参加者のプログラミングスキルには凄く差があるし,出てくるソースやパッチの品質も凄まじい差があった.一から書き直したくなるような『なんじゃこりゃ』な物が出たかと思うと,高尚・難解すぎて理解出来ない哲学的な物が出てきたもする(※この部分はオープンソースでの話であって,雑誌の記事の品質とリンクする話ではありません).シンプルなロジックで書かれているものもあれば,トリッキーな方法で短く書くことに情熱を傾けたコードもある.でも,『これを作るのだ』という究極の目標や目的は全員が共有していて,その実現のためにみんなが自分なりの方法でコードを書く.そして出てくる物の多様性から新たな視点や展開が生まれたりして,一見バラバラな集団に見えて実は全体として・結果的にうまく回ったりする.活動的なプロジェクトでは,集う参加者の熱量はグラグラと煮えたぎった鍋の中を思わせるくらい.

そして外に対して何か活動しようという人はそれなりにクセがある人が多いので,プロジェクトのまとめ役的な中心となる人の存在も重要.その人の才能やガッツ,人徳で回っていると言っても良いプロジェクトもあるけど,この点も『かーそる』との共通点かもしれないですね.

内容の幅広さが凄い

と,ここまで具体的な内容に関して一切触れませんでした.

私が感じた印象は,『知的生産の技術をテーマにみんなで好き勝手言い合いましょう』的な読み物とでも言いましょうか.尼のレビューにも書きましたが,『知的生産の技術』を俯瞰してエッセンスを考察する所から始まり,方法論,エピソード,道具,今すぐ使える便利なtips,随筆等の話等が詰まっています.

ご存じの通り,私はここで挙げたような内容がどれも好きな,興味の対象が広い好事家です.ストライクゾーンが広いです.でも,この雑誌はピンポイントで狙って思いっ切り放られたデットボールのような物です(^^

でも,私のような人間向けのニッチな内容かというと,さにあらず.執筆陣の専門分野の広さや層の厚さのせいもあり,話題も書き方も多様です.必ず貴方がワクワクしながら読みふけってしまう記事が見付かるはずです.かいつまんで紹介すると…

「知的よ,サラバ」
歴史を振り返ることにより,近寄りがたい語感・オーラを持ってしまった「知的生産の技術」の呪縛を解き放つ
・「知的はライフの中にある」
身近な問題,方法論に生かせる「知的生産」について
・「技術」から「技道」へ
技は「やるべきこと」のために使うのではなく,「やりたいこと」のために使うのだという本質的な話

全てを紹介したいところだけど,あまり長くなるのも問題なので止めておきます.

一応補足しますと,少し固い感じに書いてしまいましたが,学者先生が難しい顔しながら四字熟語を連ねて高尚な議論をする雰囲気ではなく,肩肘張らずに読み物として楽しめます.そして読んだ後,シッカリ身になります.

そしてワタシ的にツボったのは,「4日間の見取り図をつくる」にあった流れ.これも尼のレビューに書いたのだけど,メニューに無いウインナー珈琲を注文したところ,洒落っ気のあるマスターの手により,珈琲と一緒にこんがり焼かれたウインナーソーセージが出てくる下り.このような緩い話の後に,ズバッとFDIという4日間を一単位とするタスク・スケジュール管理手法の解説が始まります.読み物で笑わされ,素晴らしい方法論に唸らされました.

あと,「知的生産の原風景」にあった,定型文をタイプする際にカードの組み合わせを下書き代わりに使った小学校の事務の人が実践していたエピソードとか,「書いてから,書く」という机の上で数式や図がメロディを奏でる情景が浮かぶ詩(大好き!!),「自分のスペースを見る/自分とともに見てくれるもの」にあった,深く静かに思索する雰囲気も素晴らしく好きだなぁ.

書き始めると収拾が付かなくなるので,この辺りにしておきます.あと本誌には名刺サイズの情報カードの話が載っていたけど,個人的には,この方向性のガジェット/ツール系の話しをもう少し読みたいかな.

メディアの『場』感が凄い

と,いうことで,執筆陣が伸び伸びと書きたいように書き,それでいてバラバラにならずにうまくまとまった『メディア』になっているなぁと唸らされました.雑誌という箱が前面に出るのではなく,粒ぞろいの執筆陣全員がキラキラと個性を輝かせている感じ.全てがメインディッシュの幕の内弁当感.

昔の文芸誌とかはそんな雑誌があったような気がしないでもないのですが,久しぶりにこんな感覚を味わいました.

今後に対する期待感も凄い

雑誌なわけですから,これで終わりではないわけです.次があることが前提なわけです.次号以降にも期待してしまうわけです.号を重ねる毎に期待と言いますか,求められるハードルが高くなって行くと思います.でも,執筆陣は周りからのプレッシャーに負けずに頑張って欲しい.

こんなことを書くのは気が早いけど,次号も買わせて頂きます.応援しています.

***

と,いうことで,敢えて出来るだけ内容に触れないように読み物風に書評(?)を書いてみました.少しでも『お,興味が湧いた.読んでみようかな』と,思う人が増えてくれると幸いです.そしてこの雑誌がジワジワと売れ続けてくれると嬉しいなと思っています.

最後に敢えてこの言葉を使いますが,『知的生産の技術』という言葉が古くなった殻を破って今一度生まれ変わり,私達の身近なものとして日常的に考えたり実践したりする人口が少しでも増えて欲しいなと願っています.

|

« 幸せな気分になれる鉛筆:サンスター さくらさくえんぴつ | トップページ | 映画「この世界の片隅に」を観て »

コメント

書評ありがとうございます!

あとAmazonレビューはたいへん嬉しかったです(1つめのレビューがつくまでいつもドキドキしておりますw)。

次号もご期待頂けているということで嬉しいかぎりですが、情報カード系の特集を行う場合は、

|ω・`)チラ

投稿: Rashita | 2016年11月25日 (金) 15時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/198640/64538505

この記事へのトラックバック一覧です: 知的生産の技術で盛り上がる雑誌『かーそる』創刊号を読みましょう,いや,読むべきです.:

« 幸せな気分になれる鉛筆:サンスター さくらさくえんぴつ | トップページ | 映画「この世界の片隅に」を観て »