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2015年3月26日 (木)

映画『アメリカン・スナイパー』を観た後で原作を読んでみて

映画の方は封切り当日の朝一に期待に胸をくらませて観に行きました.結果,かなり微妙な感想を持ちました.また,某氏から『ネタバレは待て.今しばらく待て』と釘を刺されたので,書くのに間を開けました.

封切りからかなり日が経ちましたので,少しネタバレを含んでも大丈夫かなと思い,公開することにします.

なお,映画の公式ページはこちら.そして映画の予告編も貼っておきます.

原作本は『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』です.映画化の話が聞こえてきた頃に映画を観た後で読もうと購入したのですが,その後映画の封切りに合わせて半額以下の文庫本 が出て,更には同時にKindle版まで出るという仕打ち.実に悲しい目に遭いました.

結局ハードカバーは開くことがなく,隙間時間読書用にKindle版を購入.転んでもただでは起きないと考えるか,上手く踊らされたと考えるかは微妙ですが,媒体が変わる度に同じコンテンツに何度もお金を払うのは実に悔しいですな….我ハ商業主義ノ被害者也.

閑話休題.

<以下,ネタバレが含まれます>

予告編を見て頂くと,戦場のピリピリとした緊張感が伝わってきて,所謂,『ハリウッド的エンターテイメント娯楽超大作』とは一線を画す雰囲気が伝わって来ます.原作を読む前でしたので,私はリアル志向のプラトーン的な映画を想像していました.実話をベースにしているという点も踏まえて考えると,映画とは言え,R15だし少々ヘビーな内容だろうと思っていました.

しかし実際に観てみると,『なんじゃこりゃ?』的な部分が大きく,『これはきっと映画化の際の脚本・演出が悪いに違いない』と思って読んだ原作が,更に『えーっ』な感じだったため,色々な意味でインパクトが大きいものになりました.

まず映画を観て思ったのは,

  • 戦闘シーンが淡々と描写され過ぎている感じ
  • 心理描写が少ない.狙撃マシーン的な描写が多い
  • 予告編以上のストレスを感じず,主人公がPTSDを受けるほどのインパクトがあったことが理解しにくい(*).心が壊れていったように見えにくい
  • アメリカ映画は『家族』や『子供』とを絡め,『護るんだ!』とか『かわいそう!』的な話しに持って行くので安直
  • 強敵を登場させ,主人公に倒させるのはワンパターンではなかろうか.それも劇的に
  • 最後は『USA! USA!』か…

といった感じでしょうか.

(*)改めて『その場の当事者だったら…』という想像を巡らすと,凄まじいストレスを感じます.つまり,普通に映画を観ているだけでは感情移入が不十分であると言えるかもしれません.そもそも銃撃戦の渦中というシチュエーションは多くの人にとって非現実的ですので,感情的に入って行きにくいわけで.とは言え,紙の月のときは非現実的な状況にも激しく引き込まれたので,描写次第かもという気もします.

戦闘シーンはプライベート・ライアン程の迫力がありません.

『実戦はそんなものだ.特にスナイパーは殆ど待つのが仕事』という気もしますし,予告編にあるような,監視&狙撃のシーンはとてもリアルに感じました.しかし,最後の戦闘シーンでは『これから見せ場の戦闘シーンですよ』という雰囲気は感じたのですが,今ひとつ盛り上がりに欠けました.

その一方で,かなりわざとらしい演出がされていて引っ掛かるシーンがあります.

射撃種目でオリンピックに出た敵の凄腕のスナイパーを,『あんな遠距離で当たるわけが無い!』と,周りに言われながらも狙撃をし,見事に斃すシーンがあります.この他,病院から出てきた身重の妻と電話している際に急に銃撃戦になり,一部始終が妻が聞くところになって,心配のあまりに路上で倒れそうになる…なんてシーンもあります.

実にドラマティックなシチュエーションです.何れも原作にはありません(**).

(**)凄腕スナイパーを斃したのは主人公とは別のスナイパー.斃した状況の詳細は書かれていない.また,電話で話していたのは妻ではなく父親.

エンターテイメント作品という感じではなく,かと言って強烈なメッセージに対して考えさせられる感じでもないため,正直な所,『映像としては』かなり残念な気持ちになりました.最後の葬儀のシーンで,英雄化を派手に行おうという映画の作り手の意図が見え隠れしたことも一因です.これが無ければ,見終わった直後の印象が変わったかも…いや,確実に変わりました.

***

そして原作はというと,前述の通り,更に『えーっ』な感じでした.ただし,こちらは全く別の方向に.

原作も,映画と同じように淡々と話が続いて行きます.出来事が淡々と記録された,抑揚の無い日記帳を読む感じです.たまに話の途中に入る,妻の当時の回想や本音が良いスパイスになっていますが.

そして主人公のクリスはとても正直な方のようで,日本だったら絶対書けないようなことまで,特に気を遣った形跡無く書かれています.まぁ当局の検閲を経ているようなので,本当にマズイ部分は削除されていると思いますが,色々と驚くようなことが書かれています.

具体的には,

  • SEALS内のいじめや体罰について
  • 基地の近くや遠征先でのケンカや逮捕,粗暴な行為や法治国家では考えにくいような当局の対応について
  • 海軍が如何にSEALSメンバの攻撃性を維持させているか
  • 敵を殺すことに対する良心の呵責について

等々.

戦闘の状況なども非常に興味深い記述が多かったのですが,上記の内容の方が私にとってはインパクトが大きかった.

日本でしたら,『反戦.平和万歳』とか,『戦友を守るため,やむなく敵を撃った.出来るだけ戦闘は避けた』とか,『日頃から紳士的に行動し,仲間は家族同然であった』的な話しばかりになると思います.太平洋戦争時の回顧録/自伝を読むと顕著ですが,事実や行動に対して主観的な記述を付加して英雄譚的にアレンジしたり,言い訳じみた話が続いたりするものが多い.そして醜聞的な話は殆どが無かったことに.

しかしこの本は違う.

繰り返しになりますが,新人隊員に対する伝統的な陰湿な虐め,ケンカ武勇伝や逮捕後の超法規的な無罪放免(!!),目的のためには嘘も厭わないぜ…もう時効だよね的な話のオンパレード.『これがSEALSだ!どや!』的に書かれています.

まぁSEALS内では普通なんだろうけど,世間一般としては…え?アメリカ的にはセーフなんですか?と,考え込んでしまう反面,『よくぞ隠さず書いてくれました!』という気持ちにもなります.でもその一方で,日本に存在する米軍基地のある街の状況を思うと,複雑な思いで一杯です.

いずれにしても,米軍出身者だからこそ出版できた本でしょうね.自衛隊内の深刻ないじめの一部は表面化しているけど,自衛隊出身者がこんな本を書いた日には,制服組のトップだけでなく防衛大臣の辞任騒ぎになるんじゃないかと思いますし.

と,いうわけで,プロパガンダ抜きのアメリカ軍の本当の姿を知るためには,この原作本はとても良い教科書であると思います.そして一人の兵士を等身大で理解するという意味でも.

最後に少し補足しておきますと,日頃のワイルドな素行や戦場での行動以外…具体的には妻や子供達との距離の取り方や関係性の構築・維持に関しては,我々普通の日本人でも理解や共感出来る記述が多々あります.妻の『あのとき私はこう考えていたのだが…』を合わせて読むと,親近感すら湧きます.

どんなに完璧な兵士であっても,家庭に戻れば悩み多き普通の夫であり父なんだということが分かります.そういう意味でも,原作 は読むべきです.

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