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2013年12月20日 (金)

鉄ペンカジュアル万年筆の新標準:PILOT kakuno

雑誌の付録に万年筆が頻繁に付くようになり,着実に万年筆人口が増え続けているように思います.

普通の人が日常生活で万年筆を手に取ることなど殆ど無く,試筆する機会も少ないでしょうから,万年筆のあの『楽しい』と感じられる書き味を体験することは皆無に近いでしょう.なので,付録として付いてきた万年筆が万年筆ワールドへ足を踏み入れる切っ掛けになるというのは,色々な意味で良いことだと思います.

ちょっと引いた目で見ると,ユーザーは新しい体験が出来て嬉しいし,文具メーカーも新たな分野の(より単価が高くて利益率も高い)製品に引っ張り込めて嬉しい.そしてwin-winの関係へ…って書くとちょっと下品な感じですけど(^^;

…まぁ,あれです.そんなこともあり,各社から『入門用』として売られている廉価な万年筆は,ある意味完結した商品では無く,上へ引っ張り上げるための撒き餌と言いますか,戦略的な商品とも言えると思います.そのため,『この価格だったらこのくらいだよね~』的な投げやりな感じの製品は少なく,品質,書き味共に素晴らしくコストパフォーマンスの良い筆記用具に仕上がっているものが多いです.

今回紹介する,PILOTのkakunoも,カジュアルさを全面に打ち出した廉価な万年筆ですが,なかなかどうして,素晴らしい万年筆であります.

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少なくともビジュアル的にはカジュアル指向のkakunoには,カラバリが豊富に用意されています.なので,重厚な万年筆とは一線を画します.

似たようなジャンルの万年筆としては,Lamyのsafariとか,PelicanのPelicano Jr.が有名です.共に価格的には今回紹介するkakunoよりも高価なのですが,コレクション魂をくすぐる品なため,複数本を持っている人が多いと思います.そして案外,集めるだけで日常使いをする人は少ないんじゃないかな.

kakunoは約千円と安いのですが,購入者は『カラバリを揃える』ことよりも『バリバリ使う』ことを指向する人が多いと思います.別の言い方をすると,飾っておくようなデザインではなく,親近感の湧く使ってなんぼのデザインの実用品って感じでしょうか.

で,今回私が購入したのは,細字(F)の黒と,中字(M)のオレンジです.発売直後にたまたま難波をウロウロした際には,全種店頭で売られているのを見たのですが,『買おう!』と,決めたときには,一部の在庫が通販ショップで払底していました.特に細字(F)は争奪戦の様相を呈していた感じがします.

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まずは細字の黒.パッケージには『きっと書くのが楽しくなる』の文言.ちょっと気弱です.『きっと』は不要です(断言).『絶対』に読み替えましょう.

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パッケージ裏側.とてもカジュアルな感じです.『万年筆って難しいんでしょ?』的な誤解を持っている人であっても,この説明書きを見たら,スッと入り込めるんじゃ無いかなぁ.

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中身は万年筆,カートリッジ,やさしい万年筆の使い方説明書が入っています.

わざわざ『やさしい』と宣言してる所から,どのような層に売り込みたいのかが分かりますよね.

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パッケージを開けるとこんな感じ.キャップが付いた状態ではなく,ペン先が箱の外からも見えるようなパッケージになっています.

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同梱物一式.

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インクはブルーやブルーブラックではなく,普通のブラック.安全パイ過ぎてちょっと残念な感じもしますが,初心者にも使ってもらうことを考えると,一番無難な色ですな.

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軸,キャップ共に無骨すぎず,かつ,実用的なよく考えられた形状をしています.

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『やさしい』説明書.まずは各部の名前から.全ての漢字に読み仮名が振られています.使用者の年齢として,どの辺りまで下をターゲットとしてに考えているのだろう….

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写真付きの説明書き.これまたポップな感じと言いますか,昔の『科学と学習』(←歳がバレる :-) )を思い出させる親切さです.

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その一方で,コンバータの使い方の説明も書かれています.このコラムの漢字には読み仮名が振られていません.ここだけ大人向けです.

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では早速,軸を分解してみましょうか.

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首の部分

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ペン先には見た瞬間微笑んでしまうような顔,およびペン先の太さが書かれています.

この顔のデザイン,中々良いかも.

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裏側のフィンの形状はこんな感じ.

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そしてキャップ.メーカー名とkakunoのロゴが控えめに印刷されています.

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それとワンポイントなのですが,キャップに凸があり,転がらないようになってます(写真中央).

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では実際に,ダイスキンに書いてみましょう.インクは付いてきたブラックです.

読んでもらうと分かる通り,線が適度に細くて漢字も普通に書けます.そして書き味はと言うと,カリカリでなくヌラヌラでもないという感じ.万年筆を知っている人から見ると,とても普通.でもきっと,BPしか知らない人が使ったら,『書きやすい!何これ!』と,なるかもしれません.

漢字を書く場合はペン先が細い方が良いのですが,EF(極細)をラインナップしなかったのは,『この細さで十分』(国産のFは海外製のEFと同等)というのと,書き味をカリカリする物にしたくなかったからかなと想像.

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裏抜けはこんな感じ.インクフローがドバドバでないこともあり,ベチャベチャと裏抜けすることはありません.透けてはいますが,実用的な範囲内に収まっているように思います.

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次は中字(M).

ここからは,出張から帰ってきてから家で撮影.

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こちらはコンバータのCON-50.容量的にはCON-70 を使いたかったけど,普段使いではまぁ十分な容量かなぁと思います.入門用の万年筆でよく使用されるCON-20と比べると,倍以上の容量があります.頻繁なインク補充は必要無いでしょう.

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首にこんな感じで取り付け,ペン先をインクボトルに沈め,後ろの部分をクルクル回してインクを吸い上げます.

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以前紹介した色雫シリーズ露草を使用することにしました.

青系のやや薄い色です.

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インクを吸った状態.ペン先を綺麗に拭き取っておきます.コンバータが透明なため,インクの残量がよく見えます.軸を取り付けても,スモークな軸を通してインク残量を見ることが出来ます.

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ダイスキンにMで書いてみましょう.

当然と言えば当然ですが,ペン先が金ペンの万年筆ほどは腰がありません(やや堅い).そのため線に強弱が付きにくく,万年筆フリークには物足りなく感じるかもしれません.が,インクフローの関係で,MはFよりも『ぬらぬら感』が出て来ます.とは言え,DIME付録万年筆のようなドバドバと表現するようなインクフローではないので,完全なヌラヌラではありません.

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Fのときよりもペン先が太くなっている関係で,少し乾きにくいです.しかしこのインクとペン先Mの組み合わせでの裏透け具合は,Fとあまり変わりません.

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まとめとしては,雑誌の付録で飽き足らなくなった人が次に手に取る万年筆に仕上がっていると思います.もちろん万年筆初体験な人も大歓迎.

普段シャープやBPしか使ったことが無い人であれば,『万年筆すげーっ』ってなるんじゃないかなと思います.

***

宝石をちりばめた値段が青天井の超高級万年筆や,一度体験してしまうと他の筆記用具へ戻れないくらいの悦楽の書き味を持つ万年筆は存在します.そのため,『King of 筆記用具』と読んでも良いくらいに,万年筆は筆記用具ヒエラルキーのトップに君臨しています(断言).

しかしその一方で,『化石』とか『過去の筆記用具』と言われたり見られたりすることもあります.

こんな状況が少しずつ変わってきたのは,冒頭にも書いた通り,雑誌に付録として付くようになって来てからです.ラピタの付録になっていた頃は,読者層が偏っていたこともあり,あまりそれを感じませんでした.が,モノ系の一般誌の付録になり始めてからは,顕著に感じるようになりました.

しかし,『書く』という行動そのものが,PCやスマホの普及によって次第に隅に追いやられているようです.消費低迷の影響もあって,文房具の売り上げが下がっているなんて話もよく聞きます.

日本筆記具工業界の統計情報を斜め読みすると,出荷ベースでは必ずしも極端な右肩下がりではないようにも思います.しかし,メーカーは海外に活路を見いだそうとしているようにも見え,最近の国内での文具ブームという例外はあるものの,常に順風満帆な状態ではないようです.

このような厳しい状況もあり,出荷本数の減少を単価上げによって補うこをと考えて高級ペン志向にシフトしたり,従来はユーザでなかった人達を新たなカテゴリに誘うために,撒き餌的に廉価かつ一定の完成度を持ったペンを販売したり…といったことを試行しているのかもしれません.

『フリクション』のように,一つの製品が出ることで新たな市場がドカンと発生する可能性も無きにしも非ずです.しかし,棚ボタの連続は望めないでしょう.

そう考えると,文具メーカーが万年筆に力を入れるというのは,実に理にかなった良い方向性ではなかろうかと思うわけです.

異なる種類の製品なら,同価格帯でも共食いしません.例えば油性BPとジェットストリームは両立しにくく,同時にこれらの高級ペンを購入する人は少ないと思います.しかし,油性BPと万年筆とか,油性BPと筆ペンならアリでしょう.そういう意味では,万年筆は他のペンと必ずしも購入者を取り合わず,筆ペンよりも利用頻度が高いでしょうから,比較的売りやすく,また,使ってもらいやすいと言えましょう.

そして万年筆は,実用品というだけではなく,嗜好品でもあります.人によっては,コレクションのために複数種類を同時に購入する場合もあるわけで,メーカーとしてはガッチリ掴んでおきたいユーザー層とも言えるでしょう.

主戦場にて1本数百円のペンで他社と血で血を洗う戦いを繰り広げているメーカーとしては,少しでも万年筆人口を増やしたいと思う筈ですよね.

と,いうことで,今後とも,大勢のライトユーザーを文房具沼に引きずり込むような,素晴らしい製品を期待しています(^^

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