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2012年3月 8日 (木)

DAF(Delayed Auditory Feedback)についての説明

先日,DAFを体験できるソフトをアップしましたが,今回は『DAFとは何ぞや』に関して.

ここ数日,発話阻害銃が話題になってました.こちらに論文(PDF)があるので,研究の背景や構造,効果等を詳しく知りたい人は読んでみて下さい.

屋下に屋を架す感じになるかもしれませんが,以下,一般向けのDAF(Delayed Auditory Feedback)に関する説明をしたいと思います.

まず『そもそもDAFって何?』に関して説明すると,『聴覚遅延フィードバック』と日本語に訳されていることからも分かる通り,発話した音声を遅延させてフィードバックし,聞かせることを意味します.

経験的には古くから知られていたように思うのですが,研究としては,DAFを行うと発話の流暢さが損なわれる現象がLeeによって報告されました(Lee, 1950).また,吃音(どもり)様や発話速度の減少,イントネーションの変化等が生じることが報告され(Chapin et al 1981),遅延時間が200ms程度の時にその効果が最大になるほか(Stuart et al. 2002; Toyomura et al. 2007),影響の大きさには個人差があることも報告されています(Umeo and Ichinose, 2008).

なぜ,聞いた音によって発話が影響を受けるのでしょうか.発話の生成モデルは,下図のように考えられています(Guenther FH 2006).

Diva

 

(Cortical Interactions Underlying the Production of Speech Soundsより引用)

このように,人の知覚(聞く)と生成(話す)機能は独立で動いているものでなく,共に影響し合いながら動いています.その結果引き起こされる興味深い現象の一つが,DAFによって引き起こされる現象と言えます.

この現象は末梢神経系の反応によるものではないため,DAFによる効果や現象,原因を研究することが,脳が如何に音を聞き,そして発話生成をするかのメカニズムの一端を解き明かすことになります.

先にDAFの影響には個人差があるという話を書きましたが,私は何も考えずにやるとモロにDAFの影響を受け,意識的にフィードバックを切ると(言葉でうまく説明できませんが,耳に入ってきても意識しないように発話に集中する),全くといって良いほど影響を受けません.周りの人に試してみても,酷く影響を受けてメタメタになる人が居る一方で,全く動じない人もいて面白いです.

近年はfMRIが(昔と比較して)利用しやすくなって来ていることから,実際に脳活動を観察して実験することも行われています.

最後にもう一つ,最近の研究を紹介します.

この報告では,DAFの影響の受けやすさに正の相関をする脳活動領域が無い一方で,下図に示す発話運動の計画・コントロールを司る領域が負の相関をして脳活動が高いことを報告しています(能田,正木,一ノ瀬 2011).別の言い方をすると,DAFの影響の受けにくさと相関して活動する領域があり,これら領域の活動の大小が,DAFの影響の受け易さを決めるということです.

Brain_2

# 能田さん,資料ありがとう

遅延時間を厳密にコントロール出来るわけではないのですが,体験可能なソフトをアップしてありますので,実際に試してみたい方はご利用下さい.自分でやるよりも,人に行わせて横から見ている方が,その効果の度合いがよく分かるかもしれません.

ちなみに吃音症状の治療のためにDAFが使用される場合があり,DAF装置が販売されています

と,いうことで,最近話題の『発話阻害銃』は,アクティブノイズキャンセラのように『音響的に信号を打ち消す』ような物ではなく,『人間が正常に発話することが困難になるような音声をピンポイントで放射する装置』というのが正しい理解です.

そして少し余談ですが,この装置で使われている『指向性スピーカー』ですが,仕組みは超音波を搬送波に使用していてですね…長くなりそうなのでやめときます(笑).1万円程で秋月からキットを購入可能です.

参考文献:

  • Lee, B. S. Some effects of side-tone delay. J. Acoust. Soc. Am., 22: 639-640, 1950.
  • Chapin, C. et al. Speech production mechanisms in aphasia: a delayed auditory feedback study. Brain and Language, 14: 106-113, 1981.
  • Stuart, A. et al. Effect of delayed auditory feedback on normal speakers at two speech rates. J Acoust Soc. Am. 111: 2237-2241, 2002.
  • Umeo, K. and Ichinose, Y. Effect of auditory attention on utterance in delayed auditory feedback experiments. Proc. Spring Meeting of Acoust. Soc. Jpn. pp. 605-606, 2008.
  • Guenther, F.H. Cortical interactions underlying the production of speech sounds. Journal of Communication Disorders, 39, pp. 350-365., 2008.
  • 能田由紀子,  正木信夫,  一ノ瀬裕,  遅延聴覚フィードバック条件下での発話時の脳活動,  日本音響学会 2011 年春季研究発表会講演論文集, 3-P-30(a), pp. 575-576,  平成23年 3月

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