大人のアスペルガー症候群
本書はイラストを多用した非常に読みやすい体裁になっている.そしてアスペルガー症候群に関心のある人,当事者の周りの人,そして本人いずれが読んでも役立つ内容になっている.
各章のタイトルを列挙すると以下のような感じ.
- なぜうまく生きられないのか
- 人にあわせられない疎外感
- 職場に定着できない無力感
- 誤解と非難がもたらす劣等感
- 支援を受けると、生活が安定する
1章は基本的な話,そして2章~4章はそれぞれ障害によってどんな問題が発生し,そしてそのとき本人は何故そういう行動を取るのか,5章は様々な組織の支援に関してや,職場がどのような形で本人に接すると問題が少ないかに関しての話だ.『概要説明→詳細説明→対策・対応』という構成になっており,きちんと『対策・対応』まで書かれている点を高く評価したい.学術的な書籍だと,『○は□です.これは△によって引き起こされています』で終わってしまうのも多いので,困っている人が読んでも救われない.
そして1章の中は以下のような構成.タイトルを斜め読みするだけでも概要が理解できるくらいに平易にまとめられています.
- よくも悪くも目立つ、3つの特性
- アスペルガー症候群の人は、風変わりな言動をして、よく目立ちます。
- 会話ができているようで、できていない
- アスペルガー症候群の人は、たくさん発言をするわりには、話のテーマやねらいを理解していないことがあります。コミュニケーション面の特徴です。
- 社会性がなく、失礼な言動をする
- 「高校も大学も出たいい大人なのに、常識がない」という注意を受けることがあります。それは社会性の乏しさから生じるトラブルです。
- 想像力に乏しく、応用がきかない
- アスペルガー症候群の人は、一度決めたことを、簡単には変更しません。想像力が弱く、考えや発想の転換が苦手だからです。
- こころの病気ではなく、脳機能のかたより
- アスペルガー症候群は、心の病気だと誤解されていることがあります。実際は、こころではなく、脳に問題があります。
- 困難を放置すると、こころの問題に
- 発達障害自体はこころの問題ではありませんが、理解や支援が不足すると、その影響でこころが疲れ、精神疾患が引き起こされることがあります。
そして導入部の「友達ができない、仕事ができない」は,障害を抱えた本人が読むことを想定しているような流れだ(成人してからこのようなパターンで自らがアスペルガー症候群であることを知り,『アスペルガー症候群とは何だ?』と,なってこの本を手に取る人は実際に居そうだ).
- なにをやってもうまくいかない。何度も同じミスをする
- 同僚との関係が険悪になって退職
- なぜ自分だけきちんと働けないか分からない。絶望的な気持ちになる
- 誰かに聞いてほしいが声をかける相手がいない
- けっきょくまた退職して引きこもりのような状態に
- 鬱病かと思って精神科へ
- アスベルガー症候群との診断
内容的に,アスペルガー症候群の障害を抱えた本人,または何らかの接点がある人にはとても役立つ本だと思う.
で,本書をはじめとして何冊か関連書籍を読んだり調べた程度なのだけど,私が理解した範囲で簡単に説明すると,アスペルガー症候群とは,
- 社会性
- 社会常識がなかなか身につかない
- コミュニケーション
- 人の話を聞けない,聞いても理解するのが苦手,意図や気持ちを読み取れない
- 想像力
- 興味の偏りが強いetc
の3分野の障害といった感じだろうか.
障害は先天的な脳機能障害が原因なのであって,よく誤解されているように,親の育て方の問題によって引き起こされるものではありません.また,『アスペルガー症候群』は『知的障害のない自閉症』とも呼ばれていることからも分かるように,健常者と比較して知能が低いわけでもありません.
そんなわけで,子供であれば,『変わった子』とか『変わった性格』で片付けられてしまう場合が多いようです.しかし,その際に周りの大人が状況を正しく理解し,その子が将来社会生活に適応出来るようにトレーニングすることが重要です.障害そのものを取り除くことは出来ないけれど,その子が将来受けるかもしれない苦しみを緩和することが出来るようです.
このような理由もあり,発達障害を採り上げている書籍の大半は,障害を抱える子の親や家族が障害に関して正しく理解をし,そして如何に接して行ったら良いかを知ることを目的として書かれています.『ササッとわかるアスペルガー症候群との接し方』も読んでみたけれど,こちらも基本的には同様のスタンスで書かれていました.
しかし,『アスペルガー症候群』は子供にのみ見られるものではないし,成人すると障害が消失するという性格のものではありません.昔はこういった障害に対する社会の理解は非常に乏しかった関係で,本人は何も情報を得られずに成人になり,また,相応のトレーニングを受ける機会も無かったことでしょう.
結果,本人は何故自分は周りに受け入れられないか分からずに独り苦しむことになるし,周りの者は,(発達障害に対する理解が乏しいことも相まって)神経を逆なでするような言動や非常識な行動に(程度の差こそあれ)辟易し続けるという悪循環に陥ることは容易に想像出来ます.こういう状態では誰も幸せになれない.
さらに最近は,犯罪者がアスペルガー症候群と診断され,それが強調されて報道されることにより,『アスペルガー症候群』そのものに変な偏見を抱かれ易い状況もあります.
例えば
- 京都・宇治の小6刺殺:元塾講師
- 浅草女子短大生(レッサーパンダ帽)殺人事件
は記憶に残っている人も多いでしょう.
しかし,
日本には,アスペルガー症候群の子が犯罪を起こしやすいことを示すデータはありません p.46
です.大抵の書籍には同様の解説が載っています.
その一方で本書の著者は,
ただ,アスペルガー症候群特有の行動が,ある一面では犯罪行為とみなされてしまう側面はあるかもしれません.アスペルガー症候群の子は,相手の気持ちを理解することが苦手なため,犯罪を起こすつもりはないのに,相手に嫌悪感やときに恐怖感を与え,それが犯罪のきっかけになってしまうこともありえるのです.p.46
とも書いています.
人は誰しも,同じ情報や状況を与えられたら同じように考える(ないしは,この人ならこう考えるだろう)という前提で,相手の気持ちや考えを想像しながらコミュニケーションを図ろうとします.しかし,この前提が崩れている相手に対しては,当然ながらコミュニケーションは成立しない場合がある.なので,健常者が健常者に対して行うのと同様の方法を用いてアスペルガー症候群の人に対してコミュニケーションを計ろうとしても,摩擦が生じる場合があるし,不快な思いをする場合もあるでしょう.
そういう意味では,少しでも多くの人が発達障害に対する理解を深め,対応法に関しても理解する必要があると思います.
ただ,問題行動を何度も何度も何度も繰り返す人に対しては,物理的に接点のある人達が,何らかの対策や支援の手を差し伸べて欲しいと思う.だけど,なかなかうまく行かないね.
以下,関連する内容で読み応えのあるページをいくつかリンクしておきます.
特に3番目のリンク先は,いくつかの質問に答えることにより,自分の自閉症の傾向/アスペルガー症候群の傾向を算出します.自分自身のことが気になる方は試してみては如何でしょうか.
33点が閾値(これより低ければ正常範囲内)だそうで,私がやってみたら9点でした(低すぎたので焦ったが,千葉大の若林先生の論文のグラフを見てホッと一安心…).
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コメント
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http://nvld.jugem.jp/
お邪魔しました。
投稿: NLD論説家 | 2008年10月12日 (日) 07時54分
早速拝見させて頂きました.
やはり周りの人のサポートが重要ですよね.
大人の場合は親が介入することはしにくい.そのため本人が自分できちんと対応できれば良いのですが,問題意識を持っていない場合があるというのが問題かもしれませんね.
心療内科の敷居を低くして,定期的な健康診断に含められたら良いと思うのですが…実現性はかなり低そう.何か具体的な解決策があると良いのですが.
投稿: tadachi | 2008年10月12日 (日) 12時23分