« saa717xドライバ:ivtv | トップページ | 達成感を感じる瞬間 »

2008年4月16日 (水)

100回言えば本当…にはならないけど,みんな信じる

尤もらしい内容の話や,大勢の人が言っている話,(実態はさておき)権威ある人や媒体が発信している話は無批判で信じることが多い.そして広まった話は,仮にそれが事実無根の話であっても,真実であるとして定着することが多い.

本エントリーでは,『正しくない話が真実として定着している話』を採り上げるのだけど,これは利害関係や『大人の事情』で発信者自らが作為的に作り出して広めた話もあれば,全く関係の無い第三者が何気なくした話に,尾ひれが付いたりしながら広まってしまった話もある(*1).そしてそれらの話の一部は,『都市伝説』となる.

(*1)少々本筋から外れる話になるのだけど,豊川信用金庫事件が有名

前に書いたエントリーで,『この話は突っ込んでおかねば!』と,思いつつも書き忘れていたネタがあるので,別エントリとしてまとめてみることにする.

先日エントリーを書いた,情報は1冊のノートにまとめなさいの中で紹介されている,uni(三菱鉛筆)のパワータンクは非常にパワフルなボールペンだ.加圧式のインクカートリッジになっており,上向きにだろうと水の中でだろうと筆記することが可能だ.

しかし,本書の中で(p.158)加圧ボールペン(『スペースペン』を指していると思われる)が,宇宙で使いたいというNASAの注文で開発されたペンとして説明されていた.

この,『スペースペンがNASAの注文で開発された』という話は,非常に広範囲に広まっているし,多くの人に信じられているのだけど,実は嘘なんである.また,

アメリカのNASAは、宇宙飛行士を最初に宇宙に送り込んだとき、無重力状態ではボールペンが書けないことを発見した。これではボールペンを持って行っても役に立たない。

NASAの科学者たちはこの問題に立ち向かうべく、10年の歳月と120億ドルの開発費をかけて研究を重ねた。

その結果ついに、無重力でも上下逆にしても水の中でも氷点下でも摂氏300度でも、どんな状況下でもどんな表面にでも書けるボールペンを開発した!!

一方ロシアは鉛筆を使った。

  ――はてな Diary::Keywordより

なんて話で聞いたことがある人もいると思う(亜種アリ).

話として素晴らしいまとまり方だ.具体的な数字や権威ある組織名も出ており,内容の信憑性は一見高く思える.おまけに米国とソ連の対比が秀逸で,M16とAK47の構造の話をするときにも使いまわせそうな感じだ.

でもね,ここに書かれている研究開発費の120億ドルというと,当時のお金で43.2兆円です(当時は固定相場制で360円).ちょっと考えてみれば,『あれっ?』という感じになりませんか?

この話題に関しては,このエントリーこのエントリーも詳しいのだけど,NASA自身がこの話に対するコメントを公開しているので,まずはこのページを見て欲しい.

意訳を交えて要点をまとめると,以下のような感じ.

  • 最初のNASAのミッションでは鉛筆を使っていた
  • その後Tycam Engineering Manufacturing社のシャープペンシルを使ったのだが,調達価格が高いということで問題になり,より安価な物を使うようになった
  • この頃,Fisher Pen社が無重力環境等の過酷な環境下でも利用可能な加圧インクカートリッジを開発した
  • このペンの開発にNASAは出資していない
  • 1965年にFisher Pen社がNASAにこのペンの使用をオファーして来たが,NASAがテストの後にこれを使用したのは1967年から.約400本のペンがアポロ計画のために購入された
  • ソ連は油性鉛筆を利用していたが,1969年2月に100本のペンと1000個のインクカートリッジをFisher Pen社から購入している
  • アメリカの宇宙飛行士とソ連/ロシアの宇宙飛行士は,これらのペンを使い続けている
  • Fisher Pen社は月に行ったペンというキャッチコピーで売り続けており,現在はFisher Space Pen社(Fisher Pen社から分離された会社)が扱っている

つまり,NASAが依頼したわけではなく,単に民間企業が開発したペンをNASAが購入して使っているだけだということだ.そして米国だけではなく,ソ連/ロシアでも使用されている点にも注意.

では,国内ではどのように『スペースペン』が紹介されているのだろうか?

まずはこのページ.NASAの過酷な検査をクリアし,宇宙飛行士によって使われているという話等,事実に即した話のみが書かれている.内容には全く持って問題は無いように思う.では,販売店での説明はどうだろうか?

ショップ(1)ショップ(2)ショップ(3).一部引用すると以下の通り.

1968年、NASAの要請によりスペースペンを開発しました。――(1)

フィッシャー社は1968年、NASAの要請によりスペースペン(ボールペン)を開発しました。――(2)

NASAの要請により開発された無重力の宇宙で使える「スペースペン」――(3)

NASAの要請』という文言が全てに入っており,(3)を除いて『1968年』という年号が出てきている点に注意して欲しい.

そしてAmazonに掲載されている商品紹介を見てみると,

「宇宙でも書けるペンを」という依頼を受け1968年に開発されたフィッシャー社のスペースボールペン。-34℃~+121℃の温度差にも耐え、水中、上向き、さらに無重力状態においてもその書き味は変わらない。

今度は『NASAから』という文言が消えているが,『1968年』という年号は符合する.

良心的に考えると,『1965年にNASAにスペースペンをオファーし,トライアル受け始め,合格して1967年に調達開始された.しかし,この(紹介している)製品はNASAからの(機能修正依頼等の(?))要請を受け,調達開始後の1968年に開発したものだ』と,いった意味でしょうか.『消防署の方から来ました』的でちょっと苦しいなぁ.

ショップではどこも似たような文章を使っているので,きっと『こんな紹介の仕方をして売って下さい』といった具合に,テンプレートとなる文章が配布されているんでしょうね.


スペースペンと似たように,営業的にうまく展開されている話としては,Moleskineがある.

このページをよく読むと,ある一つの事実が分かる.昔フランスで作られていた『Moleskine』と,今,イタリアの会社(*2)が作っている『Moleskine』は別物であるということ.つまり,今,貴方が手にしているノートは,ブルース・チャトウィンが愛用していたものは別物だということだ.

(*2)2006年にフランスの会社に買収されました

品質に非常に激しい波があるので全てがそうだとは言い切れないけど,前述の公式ページにある『モレスキン・ノートブックは、日々の忙しさや旅行中の厳しさの中で仕方なく酷使してしまう状況にあっても十二分に持ちこたえることが証明されている、信頼に足る手帳なのです。』の筈なのに,『すぐにカバーの背が割れる』とか,『使っているうちにバラバラになる』とか,『有機溶剤臭い』とか酷評されることのある,『イタリアの会社の製品で"Italy"と書いてあるけど中国製』の手帳とは別なんである(製造国は複数ある可能性はある).

そしてMoleskineを語るとき,『ヘミングウェイやゴッホが愛用した』という話が出てくるけど,公式には『復刻された』Moleskineというブランドは1996年に登録されたものなので,当然ながら彼らは存命中に使うことは出来ない.

さらに,このページとか,このページを読むと,Modo & Modo(復刻版のMoleskineの会社)の営業部のFrancesco Franceschi氏は,『この宣伝文句は誇張である』ことを認め,さらに『marketingであってscienceではない.そして(この宣伝文句は)真実ではない』と言ったとのことだ.

中には宣伝文句のみに踊らされて購入し,以上の話を読んで『だまされた!』と思う人も居るとは思う.だけど私はそういった宣伝文句の内容を評価して購入しているわけではないので,モノのとしてのきちんとした品質を保っていれば全然不満は感じないんです.でも実態は,妙にプロモーションに力を入れている気がする(*3)一方,値上げするし品質は下がったりするしで製品そのものの魅力はかなり低下している感じがする.かなり個体差があるので全部が全部悪いとは言えないし,最近はかなりマシになって来たような気もするけど.

(*3)DUAL創刊号のp.024を見ると,茂木健一郎氏のカバンの中身として,何故かMoleskine Pocketがババンと目立つように並べられている.それも全ての荷物の一番上に置かれ,ゴムバンドが外された状態になっているという不自然な形に.極め付けは『気になったことを即座にメモ メモ用のノートは,ゴッホやヘミングウェイも使っていたというモレスキンのものを愛用.ハードに使ってもビクともしない頑丈な作りが魅力だとか』というキャプション付き.しかし本文中ではMoleskineのことは一言も触れられず.そして3ヶ月程後に出たDIMEの2008/3/18号のp.29を見ると,同じく茂木氏の『出張必携グッツ』が開陳されているのだが,荷物の構成がDUALのときとほぼ同じ内容であるにも関わらず,『愛用』のMoleskineは何故か存在しない不思議

と,書きつつも,最近出た新しいタイプのMoleskine(*4)を先日発注し,現在届くのを楽しみにしている所.

(*4)最近出たソフトカバータイプではない.頼んだものは,国内代理店での扱いは無いタイプのようだ.届いたらレポします.

営業の人がアレコレ手を尽くし,売れるように努力をしているのは分かるのだけど,裏打ちの無い言葉だけの魔法のベールをかけるのではなく,モノ自身が光り輝くような本質的な努力をして欲しいなぁと思ったりもするなぁ…

あれ?こんな時間に誰か来たみたいだ

|

« saa717xドライバ:ivtv | トップページ | 達成感を感じる瞬間 »

コメント

まだお話し中なのかなぁ、なんて思ってたら次の記事に行っちゃったーっ!(笑)ので、手短に。

私は、三菱の「POWER TANK(赤の0.7)」を買いましたが、これについては性能云々より、100円ボールペン+αの存在感と、わずかに太い握りが心地よく、気に入っています。

ところで、記事後半でtadachiさんが仰る「品質のばらつき」は問題ですね。
原因は複数あるようですが、ブランドが売買の対象になったことや、過剰なコスト意識の元、同一製品にもかかわらず、ロットにより製造国や品質(ときには材料まで!)が違う状態に至り、結果、「お客様不在」になっているとすれば、虚しいものです。

※先日、コメントで触れた「さあ、才能に目覚めよう」は、購入されましたか?
実は、私のテスト結果についてですが、5つある才能が、それぞれ「個別化」「成長促進」「共感性」「自我」とあり、最後が「収集心」でした(笑)。
こ、これはもしや、amazonへの注文は月1回で5点まで、なんていう決まりを作るのではなく、「才能を磨いた方がいいのでしょうか」。

・・・悩ましい日々です。

投稿: との | 2008年5月 1日 (木) 03時42分

>まだお話し中なのかなぁ、なんて思ってたら次の記事に行っちゃったーっ!(笑)

「ネガキャンだーっ」って勘違いされて面倒なことになることを危惧してまして….そういう意図は無いのにね(笑).いずれまた,『アメリカンジョークを真に受ける日本人とそれを真面目に検証する私(笑)』とかのネタで書こうかなぁと思います.


『さあ、才能に目覚めよう』は購入しました.ご紹介ありがとうございます.GWにじっくり読もうかなぁと思っているのですが,ざっと斜め読み&オンラインテストだけはしています.面白いですね,この本.生データを見ることが出来なくて残念ですが,統計的手法を利用している点が特に.オンラインテストも設問内容も非常に興味深かった.売れまくっているだけのことはあります.

私の結果は,『親密性』,『最上志向』,『収集心』,『分析思考』,『達成欲』でした.『収集心』をはじめとして(笑),解説に納得できる面が結構ありました.

特に『分析思考』の解説にあった,
===================
分析思考という資質を持つあなたは、他の人に「証明しなさい。あなたの主張がなぜ正しいのか示しなさい」と強く要求します。(後略)
===================
辺りは…うちの夫婦喧嘩を横で見ていたのかと(笑)

『分裂勘違い君劇場』のエントリーにもあるような理由で,相手や内容に合わせて話し方や聞き方を切り替えているつもりなんですけど,その裏で常に走っている分析スレッドの存在を意識することがあります….


さて,Amazon利用自己規制に関してですが,『収集心』の解説には,
=====
(前略)ですから、あなたは物や情報を手に入れ、集め、整理して保管し続けます。それが面白いのです。それがあなたの心を常に生き生きとさせるのです。(後略)
=====

と,あるので,『心を常に生き生きと』させるようにしてみしょうヨ(笑)

投稿: tadachi | 2008年5月 1日 (木) 12時11分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/198640/40895428

この記事へのトラックバック一覧です: 100回言えば本当…にはならないけど,みんな信じる:

» 新しいMoleskine Volant(モールスキン ヴォラント)が届いた [tadachi-net 出張所]
先日ちらっと触れたモノが届いた.モノは復活したMoleskine Volant. [続きを読む]

受信: 2008年5月11日 (日) 23時46分

« saa717xドライバ:ivtv | トップページ | 達成感を感じる瞬間 »