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2008年3月 9日 (日)

博士号は何の役に立つ?:高学歴ワーキングプア

とても刺激的なタイトルだったので,手に取ってパラパラっと斜め読みした後に購入した.

内容を要約すると,大学院は国の政策で拡充され,右も左も分からない若者が甘言にそそのかされて院に進学している.そして『入院』した学生が修了するときには,深刻な就職難が待ち受けている.一人一人の学生を育てるのには多額の税金を投入しているというのに,これは何たる状況であろうか.自殺者や行方不明者,フリーターの割合は極めて高い.そしてこの状況を放置するのは(高学歴な)頭脳の無駄遣いである… といった感じであろうか.

著者も現在は非常勤講師を勤めているそうだが,H20年4月以降の身分は(本書の執筆時点では)未定とのこと.本書には,どこに向けたら良いか分からない恨みの感情が満ち溢れている.経歴を見ると,本書の内容に納得が行く.

でも,ちょっと待って欲しいんだ.

著者は,学生が大学教員のアドバイス -これが大学側の経営的な意図を持ったものであったとしても- を受けて大学院に進学することを決定する際に,冷静に状況を判断出来ないほどに若い/幼いので,修了時に引き起こされる状況は「自己責任」とは言えないだろうと訴えている.でもこの論調で言ったら,学部を卒業後に新卒で企業に就職した者でさえ,就職先を正しい目で見極めてきちんと選べないという話になってしまうんではなかろうか.「OBが…」とか,「会社説明会の説明では…」等,理由も付けようと思えばいくらでも付けられる.

私は何れの場合も『自己責任』と言って良いと思う.何らかの選択を行ったら,その結果に対して責任を負わなきゃならないのは当然だと思う.ましてや選択を迫られるのは二十歳過ぎの成人なんだし…

とは言え,「では,自己責任ってことで」ということで終わらせてはいけないとも思う.心を病んでしまった人は非常に多い.最近は学生向けのメンタルヘルス相談に関しての制度が充実してきているようであるが(*),深刻な人ほどあまり相談に行けないんではないかと思ったりもする.

(*)相談員が来る日に,教員ばかりが順番待ちしていたという笑うに笑えない話も聞いたことがある.

某板の「鞄の中を見せてください」スレでは,晒している人が院生やポスドクの人の場合,高確率で何らかのメンタル系の薬が鞄の中に入っていた.そして「誰も回りに居ないことを確認してからこっそり服用してます」という書き込みもあった.かなり状況は深刻である.

周りの目を気にした場合,相談員に相談したり心療内科にかかったりするのはかなり大変だと思うし,相談や治療が必要な人ほど,気持ち的にその最初の一歩が踏み出しにくいんじゃないかという感じもする.私が知っている範囲で言うと,非常に真面目で正直な人ほどかかりやすい病のような印象がある.こういう性格の人は研究者に多いので,過剰なストレスに晒されたときに心が折れてしまう人が多いんじゃないだろうか.

そんなわけで,修了者の就職難の解消という根本的な問題の解決は重要であるけれども,大変だし時間もかかると思う.しかし,今まさに病んでしまっている人の救済は,早急に検討を行わなければならない最重要な課題であると思う.

一方,こういう状況は,過重労働下のエンジニアも起きているように思う.とある掲示板では,忙しくて医者にかかれないときには,加味帰脾湯錠セントジョーンズワートという市販薬が症状緩和に良いと紹介されていました...


一応自分の話をすると,私は学部を出た後,修士まではそのまま行きました.指導教授やお世話になっていた教授の勧めもあったけど,院卒は就職が厳しいという話も聞いていたし,修了後に進む道の事も結構考えた.そして金銭面の問題もあった.両親に対しては自分で何とかすると説明していた手前,奨学金は頂いていたものの,かなり厳しかった.何とか2年で修士を取ることが出来たのは幸いであった.

研究の内容そのものもそうなのだけど,物事を思考・思索するプロセスやまとめ方に関して深く学ぶことができ,非常に有意義な2年間であったと思う.

そして修了後就職したわけだけど,数年後に社会人学生として博士課程に入った.流石に二足の草鞋はキツく,休学も何年かしつつ7年もかかって博士号を取った.研究内容は業務内容と一致していないけれど(修士は『工学』で取ったけど,博士は『学術』),こちらも『プロセス』という面と『専門知識』という面の学習や習得に関しては,非常に有意義な日々であったように思う.

博士課程では,私と同じように会社勤めしながら学生をする人が結構おられた.しかし,異動や上司の不理解により,退学する人も結構居た.私は7年もかかってしまったが,これでもかなりラッキーな方だと思う.

そんなわけで,私は『学問の世界に身を置き,この世界で研鑽を積み,この世界でのみ生きる』という覚悟を持って大学院に行ったわけではない.なので,本書に書かれているように,『この分野の研究に一生没頭したい』とか,『大学の常勤の教員になる』という意思を持たなかったので,大分見方が違うと思う.

だけど私の目から見ると,一度社会に出て会社勤めをし,色々と学んだ上でもう一度研究の世界に戻りたい場合は博士課程に行くという道も良いのではなかろうかと思った.少なくとも,親に全面的に援助をしてもらってストレートで博士課程まで行くと,色々と考える機会が失われると思うので,あまりお勧めは出来ないなぁ…


その他にも,本書を読んでいて違和感を覚えが点が数点ある.箇条書きで列挙すると,以下のような感じ.

  1. 客観的な論拠として使用できる筈の統計的な資料があまり使われていない
  2. 主観的意見,または身近な人の意見が非常に多い印象がある.そしてそれが『この世界の常識である』というように読ませる流れが多い
  3. 博士号は大学で教鞭を取る,もしくは何がしかのライセンスだという記述が多い(p.88 他)
  4. 『博士号』というものを,過剰に評価している印象がある.

もう凄まじく昔の話になるのだけど,就職して数年した頃,当時の社長から,某大学で技術系の講義の非常勤講師をしないかという話をされたことがあった(社長は大学の人に頼まれて,適任者を探していたらしい).私はOKと返事をしたのだけど,結局この話は流れた.
社長も先方から理由を聞いてかなりお怒りになられていたのだけど,その大学では『博士号を持たない人はNG』であったとのことだ.結局,その分野はあまり専門でない方が,教鞭を取ることになったと聞いた.

たとえ中卒であろうと,能力のある人を積極的に採って教鞭を取らせている大学も知っているのだけど,こういう大学もあるということで.そういう意味では,『ライセンス』であるかも.

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