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2007年9月24日 (月)

本当の特殊潜航艇の戦い

本当の潜水艦の戦い方』の著者による新作.

特殊潜航艇をご存知だろうか?

 特殊潜航艇とは,太平洋戦争時に日本海軍によって使用された,甲標的と呼ばれるミニ潜水艦的な兵器である.そして甲,丙,丁の3タイプがあり,最初期の甲型は全長23.9m,最大直径1.85m,水中速力26ノット.バッテリ駆動のモータのみ搭載し,航続力は6ノットで80里または19ノットで50分.武装は45cm魚雷が2本.乗員は2名.(丙,丁型は発動機が付いて自己充電が可能になる一方,乗員はそれぞれ3名,5名).

 残されている写真を見ると「ミニ潜水艦」のように思えるが,その設計思想も実態もまったく異なる兵器である.特に甲型はそうであるが,様々な補助(戦場近くまで他艦に運んでもらうetc)が無ければ作戦行動をとる事が出来ない.元々は日米艦隊決戦の際に,母艦により敵艦隊の進行方向の海面にまとまった数の艇を投下し,各艇それぞれが独立して戦闘を行うことにより敵戦力を削るという作戦の元,考案されたものである.ところがこのような艦隊決戦は発生せず,特殊潜航艇は「潜水艦」のように見えるため,運用者に大いに勘違いされて不適切な任務や環境に投入されて無駄に戦力がすり潰されることが多かった.

 この兵器を有名にしたのは,やはり真珠湾であろう.空母を飛び立った艦載機が一方的に米艦隊を痛めつけた事のみを知る人も多いが,実は特殊潜航艇の戦いの方が僅かに早く始まっていた.

 日本から潜水艦によってはるばるハワイまで運ばれた特殊潜航艇5艇は真珠湾口近くで発進し,静かに湾口への侵入を図った.警戒中の艦艇に発見されて空襲開始前に撃沈された艇もあるが,かなりの部分の戦闘の経過は不明.そして1艇も帰還せず.戦果は無かったと現在は考えられているが,1艇はバッテリから発したガスにより乗員は人事不省に陥って海岸に乗り上げ,太平洋戦争での第一号の日本人捕虜となった.

 真珠湾での使用に関し,上層部には帰還可能と説明していたし,実際回収のために多くの潜水艦が配置についていた.しかし,元々生還を殆ど期待できそうもない運用方法であるし,乗員もそれを覚悟の上で乗り込んでいたはずである.艇の大きさから勘違いされがちであるが,実は小回りの利かないので,進行方向に直進のみする魚雷を用い,狭い港湾内で十分な活躍が出来るかは能力的に非常に微妙なところである.

 真珠湾の後もディエゴスワレス/シドニー攻撃,ガダルカナル作戦,フィリピン作戦,沖縄作戦等に用いられており,本書にもその概要と経過,戦術に関する考察等が詳しく書かれている.

 一連の戦闘はあまり派手な戦いではないし,大きな戦果を上げたわけでもない.しかし,運用者側がその特性を知り,十分なバックアップ体制を敷いた場合は戦果が得られてかつ乗員の生還も可能であった半面,無理解の下に投入された戦域では出血のみ多かったようだ.

 著者の前著は現在の海自に対する批判や提案が著された目的のように感じられたが,本書ではこのような直接的な意見的なものは薄まっている.これまで特殊潜航艇のような特殊な兵器に関しては,良い書籍が少なかったのだが,本書は兵器・戦史・戦術に対する考察といったそれぞれの面において,非常によくまとまっているように思う.そういう意味では,特殊潜航艇に興味がある人にとっては必読の書といえると思う.むしろ,ある程度の知識が欲しいという話であれば,本書一冊で足りそうだ.

 唯一残念なことは,あくまで後世の者が資料を元に検討などを加えてまとめた内容になっており,艇の乗員に対するインタビューや体験談等が殆ど無いことだ.逆にこれらが強すぎると客観的かつ冷静に諸々検討する書籍になりえないので微妙な所ではあるが,論文ではなく一般向けの書籍であるので,バランス良く配分&収められていたらと思う.

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受信: 2007年9月28日 (金) 20時09分

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