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2007年7月 8日 (日)

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか


最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか.事故は何故起きたのか.そして事故では何がおきたのか.

これは読むべき.

 以前,『墜落!からの生還』を採り上げたことがありました.

 この本は,ボイスレコーダの記録を元に,飛行機事故に到るまでの状況と生還するまでの経過を記録した物でした.普段目にすることのない内容であり,非常に興味深い内容ではありましたが,淡々と記述されていることもあり,少し不満点もありました.何故事故は起きたのか,その後どういうことになったのかといった点に関しても今一歩踏み込んで書いておいて欲しかった…と,いった不満です.

 一方今回採り上げる本書はこの点に関し,読んでいて非常に大きな満足を覚えます.また,著者によるコメントや考察,複数の見解がある場合はそれらも列挙するなど,客観的な記述にも好感が持てます.

 本書に書かれている内容は,非常に大きなエネルギーを持ったマシーンはちょっとしたミスや偶然の連鎖により,とてつもなく危険な状態に陥ることがあり,また,その被害も甚大であるということ.そしてこれまでに発生した事故の原因や経過を振り返ると,うまくやれば回避可能であるということ.そして未来に向けたケーススタディといった所です.

 旅客機の整備士が作業を急かされ,コクピットの窓を交換する際にネジを間違えた.その結果飛行中に窓が脱落し,機長が機外に吸い出され…とか,原子炉の制御室で異常を示すアラームが鳴り,操作員はマニュアル通りに対応するも,センサは操作の結果としてあり得ない状態に遷移したことを報告し,原因が分からないまま最悪の事態を生ずる瞬間が刻々と近付く…等.

 ここ150年間に発生した60件程の事故を採り上げ,その原因,経過,その後,考察といった形で各章に分類して詳細に書かれています.ミスの連鎖により一気に危険が拡大し,それに何とか対応しようとする現場の人々の様はドラマティックであり,まるで小説のようですが,それが現実に起きていたことであり,事故によっては数千人以上の被害者が出たという事実には戦慄を覚えます.

 本書で採り上げられているものは,悲劇的な結末を迎えた物だけではありません.現場の機転により難を逃れたケースも書かれています.

 私が一番印象に残った話は,アメリカン航空96便のDC-10の事故.ざっと要約すると次のような感じ.

 ブライス・マコーミック機長はDC-10を念入りに調べる機会があり,後部エンジンや方向舵,昇降舵を制御するための油圧ラインが隣り合わせに並んでいるために,1箇所でも障害を抱えた場合は全てダウンする可能性があることを知ります.そしてこれらが故障した際に役立つ筈の手動バックアップ装置も無し.そして機長は,機種転換研修の際に,規定のシミュレータ訓練を終えた後に願い出て,エンジン出力の調整のみで離陸・旋回・着陸することにシミュレータで『自主的に』トライして手応えを得ます.

 1972年6月12日.先の訓練から丁度2ヶ月後,実際に乗客を乗せて高度3650mを飛行中に突然の爆発.貨物室の搬入ドアが吹き飛び,油圧系統が全てダウン.

 実はこの搬入ドア,製造現場等から構造的な危険性が度々指摘されていたのですが,事故が発生するまで対策はされていませんでした.そしてちょっとした偶然が重なり,このドアがこのときの事故の最終的な引き金を引くことになったのです.

 マコーミック機長は操縦不能になったDC-10をスロットル操作のみでコントロールし,無事に着陸させることが出来たのか…は本書を読んで頂くとして,このドアの構造に関する製造会社のやり取り,事故後の流れ,繰返された事故の話等は非常に興味深いものがあります.

 この事故の話を読んでいて思い出したのは,1985年8月12日に発生し,520名もの死亡者を出した日本航空123便墜落事故.圧力隔壁の不十分な修理を原因とし(原因に関しては異説もある),4系統ある油圧操縦システムの全てが失われるという経緯までは酷似….

 本書には,原発や航空機,ビル設計や化学工場のような危険に隣り合わせの現場に携わる人向けの話だけはなく,その他の業種や日常生活に対しても非常に有用な物の見方やアプローチ方法なども書かれています.また,旅客機に乗った際には非常口までの座席数を数えておけ(理由は本書を読むと納得する)等,即実行できる生き残るためのTIPSも.

ハードカバーでページ数もそこそこある本ですが,テンポが良く,気が付いたら読了しました.これは読むべき.

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コメント

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投稿: シマコ | 2007年7月26日 (木) 22時41分

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