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2007年5月15日 (火)

本当の潜水艦の戦い方

 『元海自の潜水艦長が書いた』ということと,『海自の作戦に疑問を投じる話題作』との話を聞いて購入.

 本書は5章+付録の構成になっているのだが,第一章は,潜水艦は如何なる艦であり,どのような特徴があるのかの説明,第二章は潜水艦作戦の戦術的に考慮すべき条件,第三章は先の大戦における帝国海軍の潜水艦作戦の実態に関して.第四章が旧軍における作戦失敗の原因に関する考察,そして第5章は本書の著者が最も訴えたいと考えていたであろう『海上自衛隊における問題点』と,いう流れになっている.

 私は潜水艦に関する書籍は主に第二次大戦の頃の話ばかり読んでいたため,近年の話に関してはかなり疎かった.そのような状態で本書を読み始めたため,昔と今とでは潜水艦の重要度が大きく異なって来ていることにちょっとしたショックを覚えた.ジェーン年鑑では潜水艦が空母を抑えて筆頭に掲載されるようになったという話も本書を読んで初めて知ったのだが,ナルホド,さもありなん.原子力潜水艦であれば,潜航しっぱなしで長期間活動可能であるし,水中で高速航行可能.さらに武装も強力で,魚雷から巡航ミサイル,SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)まで持つタイプもある.大きな攻撃力・行動力を持ちながら探知困難,神出鬼没で攻撃されてはじめて近くに居ることが分かる…と,なると脅威の艦種であると言わざるを得まい.

 第四章まではざっと読めるし,これまでに出版されている戦記物と重複するような内容がかなり書かれている.そのため,多少潜水艦に関心を持つ人であれば,それ程大きなインパクトは受けないかもしれない(第四章のまとめ方は,流石元艦長と唸らされると思うが).しかし,第五章はちょっと違う.これまでにこのような内容の話を,真正面から書いた本は殆ど無かったように思う.特に著者の経歴を考えると,第五章の内容は海自の人だけではなく,日本に籍を置く者としては重く受け止めなければなるまい.

 戦記物は過去の出来事をまとめたものであるし,現在にまで至る時間的な連続性はあるものの,ある意味別世界の話としても読むことが出来る(僅か数十年前のことであるにも関わらず).しかし,現在も『国防』という意味で,単なる時間以上に強い連続性を持つ組織が存在する.そして当該組織から見た場合は,これら事例は現在にも通じうる極めて多くの戦訓や教訓をもたらすものであるというのは本書を読むと納得する所である.


 冷戦期の海自の作戦構想では,例え敵国が進攻して来ており,国民に深刻な被害が生じている場合でも,米軍抜きでは作戦出来ないため,海自のみは南方洋上に後退して対潜戦を実施しつつ米海軍の来援を待つ…と,いうものであったという話はかなり衝撃を感じた.また,海自の訓練の際には,潜水艦は仮想敵となり,探知される役を担うわけだが,訓練効率を上げるために故意に被探知の機会を作為しているという.あぁ,そういえばこちらのページでも紹介した,杉山隆男著の「兵士を追え」にもそういった話が出てきていた.こちらの本では,諸々の問題点をダイレクトに書くという形が取られていないので見落としてしまいがちであるが,両書を併せて読むと,『あぁ,こういうことか』と,遠回しに書かれていたコトも理解できるようになると思う.

 また,自衛隊は巨大な官僚組織であるが,細かく見ていくと一般の民間企業内にも類似の問題は数多く存在するように思われた.『本書に書かれている△△を○○に置き換えて読むと…』のようなことをすると,問題の本質や解決方法をもズバッと言い換えられる事例がいくつか散見されたような気がする.結局の所,組織はどこも同じということか….

 私は,孫子やクラウゼビッツを引き合いに出して経営戦略を論ずるような話は好きではないのだけど(例やこじ付けが強引であったり,後出しジャンケン,神様の視点的な論調が苦手なため),本書は第六章を追加して問題の一般化を行えば,日本企業のマネージャーに読ませたい本に化ける可能性すらあるような感じすらした.

 本書は『本当の潜水艦の戦い方』というタイトルになっているが,潜水艦戦の戦術面を論じた上で,そこを突破口として,海自の組織的な問題点を指摘している本といった所である.しかしながら,タイトル通りの内容を期待して手に取った人も飽きさせない良書でもある.

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