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2007年1月14日 (日)

輸送船入門

 軍事物に興味がある人に一番多く読まれる本は,やはり派手なドンパチを描いたものや,スペック表や写真等をひたすら集めた兵器カタログ的な本でしょう.しかし,本エントリーで紹介する『輸送船入門』は,スポットライトが当たることの少ない兵站系の話になります.

 余談ですが,大内建二氏の著作は,これまであまり注目されていなかったことをテーマとした本が多く,例えば『護衛空母入門』非常に興味深いテーマの物が多い.いずれ他のエントリーで何冊か紹介しようと思う.

  本書は,戦前に大型の高速貨物船を多数揃えた日本の商船隊が,なぜ戦中に短期間のうちに壊滅的な打撃を受けたのかという話を,様々な視点から検討している本です.内容としては,攻守双方の戦略や戦術,兵装や技術,輸送船の構造や兵員の輸送方法,そしていくつかの戦没した輸送船の状況等がまとめられています.
 そして比較対象として,日本商船隊以上に甚大な被害を受け,それにも関わらず立ち直り,最終的には勝利を得た英国に関しても同じ視点で書かれています.

 これまであまり目にする機会の無かった情報が整理されており,資料的な価値も非常に高いのですが,記述も単に淡々と書かれているのではないので,読み物としても非常に興味深く読み進められます.派手な話が少ない分,下手をするとつまらない本になってしまう可能性があるわけですが,流石に大内氏はまとめ方がうまい.

 読んでいて印象に残ったトピックをピックアップすると,例えば次のような感じ.

  • 日本陸海軍全将兵の犠牲率は19%程であるのに対し,商船隊の乗組員の犠牲率は50%程度近くにも達している
  • 日本貨物船を使用した兵員輸送方法と
  • 日本の戦没輸送船の一隻あたりの犠牲者の多さ
  • 日本と英国の護送船団形式の違い
  • 日本,イギリス,ドイツの商船隊の死闘の状況(どれもが非常に読み応えがある.これを読むだけでも本書を購入する価値がある)
  • 史上最悪の(民間人も含む)人的被害を被ったのは,1945年にバルト海でソ連の包囲を脱出しようとした船.タイタニックの比ではない.

 本題の結論としては,組織的な問題と技術的な問題という両面かなという感じに理解したのですが(「あとがき」では,前者に帰結するように書かれていますが),最終的には圧倒的に数に勝る方が勝つのかなぁという気も.

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コメント

「商船隊の乗組員の犠牲率は50%程度近くにも達している」に注目してコメントします・・・と言う事は、その生き残りの一人だからです。巷には華々しく敵と対戦した戦記が多い中で、終始軍の裏方として、碌な護衛施策もないためただただ敵潜の餌食になった商船にスポット当てた入門書を評価したいと思います。

投稿: KK | 2011年2月 1日 (火) 16時09分

KK様はじめまして.
コメントありがとうございます.

本書に採り上げられた側の当事者であるとのこと.当時に体験されたご苦労を思いますと,ただただ頭が下がる思いです.

陸軍の方でも,輜重兵の扱いはかなり悪く,また,過酷な環境であったと聞きます.

派手な話ばかりではなく,このようなあまり光が当たらない話も,後世に語り継がれて行って欲しいと切実に願っています.

投稿: tadachi | 2011年2月 2日 (水) 19時19分

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